「辻沢日記 61」

文字数 925文字

 ユウとあたしは再び歩き出した。

ユウが辛そうなので、繋いだ手を前にして肩を貸してあげる。

 壁から突き出した根っこを除け、砂と水に足を取られ、魚の腐った匂いを我慢しながら前に進む。

時折砂が天上近くまで積もっていて、二人でほふく前進もした。

この先に何かお宝があるんじゃないか。

砂の地下道は冒険めいていた。

「この先にけちんぼ池があったりして」

 そう口にしてみて自分ではっとした。

本当にそのように感じられたのだ。

 今回の潮時はいつもと違った。

ユウとあたしが手を繋いだことで何かが大きく変化したことは確かだった。

ならば、全然姿を見せないけちんぼ池が出現してもいいかもしれない。

すると、

「この先に水がある」

 ユウが黒木刀で前方を指さして言ったのだった。

 地下道の先に目をこらすと、そこに小さいがキラキラと輝く光が見えた。

お宝でなければ水の反射?

ユウとあたしはつんのめりながら先を急いだ。

 砂と水に足を取られるのももどかしく、時に根っこに足を掛けて転び、ユウとあたしは前へ前へと進んでいった。

段々光りが近づいてくる。

魚が腐った臭いも、干上がった水辺の匂いと感じ方が変わってくる。

 いよいよ目の前に地下道の切れ目が来た。

まばゆい光に目が痛い。

 ユウとあたしは広いところにまろび出て、その場に倒れ込んでしまった。

 白い砂が目映かった。

そこは広い砂地で奥に向かって傾斜していた。

さらにその向こうに深いエメラルド色の水面があった。

ユウとあたしは砂浜にいたのだ。

「これって、けちんぼ池?」

 ユウは頭を上げて遠くを見ていた。

あたしもその目線を追う。

水面は奥に広がり周囲が木々に囲われていた。

ユウの視線はさらにその先にあった。

木々の向こう、梢の先。

 そこに人工的な建造物。

鉄橋が横切っていた。

「ここは雄蛇ヶ池だ」

 見えていたのは、バイパスの大曲大橋だったのだ。

 湿った風が吹いてきた。

嫌な臭いがする。

水が干上がった沼の、そこで息絶えた生き物たちが発する腐臭。

ユウとあたしが大嫌いな磯の匂い。

 後ろを振り返ると、地下道の出口の上の岸辺であったろう高い所から、赤襦袢と袢纏が並んでこちらを見下ろしていた。

およそ数十体。

ユウとあたしは再びひだるさまに取り囲まれてしまっていたのだった。
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