「辻沢ノーツ 15」

文字数 1,272文字

 駅まで戻って、バス停横のヤオマン珈琲で軽くお昼を食べてから辻沢の街を見て回ることになった。

最初はやはり、調査の安全祈願も兼ねて鎮守社にお参りする。

駅前の交差点を西に真っ直ぐ行くと突き当りが宮木野神社で、東に行けば志野婦神社だ。

両社を繋ぐ道が町の目抜き通りとして発展してきた歴史がある。

そして、この通りを山車が往来するのが祭のクライマックスとなっている。

 まずは姉の宮木野さんからご挨拶に向かう。

祭礼の幟がはためく沿道は露店が連なっていて、歩道は祭を待ちきれない人で溢れかえっていた。

尻を絡げた法被姿に混じって、ヴァンパイアの格好をした女性の姿もちらほらあって、独特なこの祭の雰囲気が生まれつつあった。

日本古来の祭の風景に、さらに沢山のヴァンパイアが交じったらどんなか楽しみ。

 宮木野神社の駐車場はいっぱいで、随分待ってなんとか端のスペースにバモスくんを駐車する。

駐車場からすでに人が多かったので大体予想はついたけど、境内は早々に営業を開始した夜店のせいで大勢の人がひしめき合っていた。

本殿を目指す人の流れについて進む中でも、チラホラとヴァンパイアが目に入る。

あたしが、

「コスプレする?」

と言うと、少し前を歩いていた鞠野先生が、人の頭越しにこちらを振り返り、

「しといたほうがいいよ。やると見るとではぜんぜん世界が違うから」

それはそうだろうけど。

「あたし、します」

ミヤミユが手を挙げた。思わず顔を見ると、

「祭にスーツは似合わないし」

と言ってはにかんだ。

 少し行くとドラキュラ焼きの露店があったので、調査にかこつけて食べる気満々で並んでいると、

「ねーさんたち、社畜コスかい? やばいね」

と、タオル鉢巻のイカ焼きお兄さんから声が掛かった。

ヴァンパイアの異質さ以前に実は自分たちの方こそ悪目立ちしていることに今になって気がついた。

なるほど祭にスーツは似合わない。

ちなみにドラキュラ焼きは牙とマントが焼印されたどら焼きだった。

ミヤミユはもうひと工夫欲しいねと文句を言っているけど、5つも買って食べていた。

歩いていて気がづいた。制服を着たJKが結構多い。

それがだいたいヴァンパイアメークをして、どこかしらにヴァンパイアアイテムを付けている。

なるほどこれはヴァンパイアコーデだ。

そうして見ると、ヴァンパイア率はこの時間帯としてはケッコー高いんじゃないだろか。

10人に1人くらい? 

おー、何げに調査目線になってる。あたしって意識高い。

 みんなで参拝したあと、おみくじを買った。

まったくの普通のおみくじで、辻沢らしくせめて山椒を絡めてあったらいいのにと言うと、ミヤミユが、

「山椒おみくじとか?」

「そう、文言がピリリと辛いやつ」

「運勢。一周回って凶」

「そこは、せめて小吉で」

「恋愛。己の顔見て望め」

「恋愛。草生える」

「ピリ辛とかいうレベルでない」

「もともこもなさすぎ」

ミヤミユとわちゃわちゃしていると、鞠野先生が、

「宮木野さんは山椒不入なんだよ。山椒の木の下で死んだからね」

そういうことか。町役場のロビーの像を思い出した。

そういえばサンショウの木の下で寝てたな。
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