「辻沢ノーツ 12」

文字数 1,221文字

 そう言えば、ゴリゴリカードって名称。

そっか、ゴマスリの音なのか。

あたしはカバンの中に入れっぱなしの封筒を取り出して中身を開けてみた。

出てきたのは3枚のカードで、それぞれ違う制服の女子高生がプリントされていて、ゴマスリとは関係なさそうなデザインだった。

「これって辻女の制服だよね」

「だね」

 こっちを見ないでサキが返事をする。

「このモデルの子、秘書さんに似てない?」

「エリって人のこと? あるかもね」

 ミヤミユが一枚手に取って、

「でも、ちょっと健康的すぎるかな」

「こっちのは青州女学院ってある。そっちは成美女子工業高校だって。なんで女子校ばっか?」

 鞠野先生が、

「町長さんの好みらしいよ」

 JK好きなの? あのおっさん、てか、こんなあからさまに公私混同ってあり? 

「辻女以外はどこの女子校なんだろ」

「宮木野線沿線の女子校。全部で八校、夏服・冬服で全16種類」

 サキがスマホから目を上げて言った。

「よく知ってるね」

「蒐めてるから。それ、一人一枚もらえるなら、ウチは青州女学院のがいい。それでコンプする」

「何で蒐めてるの?」

「アドバンテージになる」

 サキはスマホに目を戻す。

「何の?」

「教えない」

 ビールで乾杯してから、明日の予定の話をした。

午前中は調査の間お世話になるお宅にご挨拶に行く。

そこは辻沢では知られた旧家で、そちらの離れを宿泊地として借りられることになっている。

ありがたいことにお台所もお風呂もあるらしい。

そこで夏の間、3人で共同生活をしながらフィールドワークする。

挨拶が終わったら、祭までの時間を使ってバモスくんで辻沢を見て回る。

事前調査ってやつ。

あたしの場合は、旧家がありそうな郊外を見ておきたいし、ミヤミユは古い農家が点在するバイパスの向こう側。

サキのテーマは「辻沢のIT生活」だから、街なかでいいのかな。
 
 9時にはひさごを出た。

あんまり沢山は食べなかったけど、山椒尽くしのおツマミはとっても美味しかった。

ミヤミユが、お土産屋さん見て回ろうってなったけど、サキは帰って寝たいとホテルに戻ってしまった。

機嫌でも悪くさせたかと気にしていると、

「いつもあんなだから」

 とミヤミユが慰めてくれた。夏休みの共同生活が思いやられる。

 駅舎に行くと、「ゴマスリで町おこし」という幟が立ったスリコギ売り場があった。

そこのおじさんにしつこくゴマすりセットを薦められたけど、なんとかスルーしてお土産屋さんに向かう。

本当に山椒ばかり。

ミヤミユはフジミユへのお土産を探してるんだろう。

あたしは、8月に仕事を変わってもらうバイトの子たちへのお土産に山椒ウエハースを買った。

甘いのか辛いのか分からない。

 駅前で鞠野先生におやすみなさいして、あたしたちはホテルに帰った。

エレベーターでミヤミユが、

「鞠野フスキどこ行ったんだろ」

「飲み足りないんじゃない?」

「ううん、お昼のこと。あの後、お線香くさくなかった?」

 確かにそう。先生の上着からお線香の匂いがしてた。
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