「書かれた辻沢 21」

文字数 1,540文字

 サキの拠点は駅前のビジネスホテル、ヤオマン・インだった。

交通の便がいいから助かってるという。

連泊の宿代はミユウと同じく辻沢町もちのはず。

予定していた拠点がドタキャンしたため、鞠野先生が町役場と交渉して提供を取り付けたそうだ。

「入って」

 中は調査道具で所狭しと思ったら意外と荷物が少なく、テーブルの上にノートPCが、窓際に資料が積んである程度だった。

「綺麗にしてるね」

 自分の拠点を想えば物が少なすぎる気がした。

「ここはね。もう一つあって、そこはひっくり返ってるよ」

「もう一つ?」

 二拠点とはなかなかなことだ。

「そっちは協力者のご厚意ってやつ」

 そういうことか。

 あたしたちフィールドワーカーのことを邪魔にする人もいれば、逆に好意を持って積極的に物資や情報を提供してくれる人もいる。

あたしも自分のフィールドに行けば親しい方々がいて色々と便宜を図っていただいている。

そういう方に出合えて初めてフィールドにハマったという感じが持てるものなのだった。

「サキは、辻沢が楽しい?」

 ハマってるサキはきっと楽しいのだろうと思って聞いたのだったが、

「楽しかないな」

 という返事だった。

 義務感でやってるみたいなものだそうだ。単位目的ってことか。

「『R』が?」

「そっちも、かな」

 詳しく聞くとサキの辻沢入りにはもう一つ目的があるという。

「辻沢に住んでいたおばさんが、こっちに来る少し前に失踪してね」

 お母さんに頼まれて探しているのだそうだ。

 よく、辻沢で人がいなくなると青墓を探せと言う。

ならば青墓をプレイフィールドにしている『R』は最適だ。捜索と調査、同時進行。

「一人で青墓を彷徨ってたら、こっちが行方不明になっちゃうからね」

「誰かと一緒なの?」

「いいや。ゲームなら他のプレイヤーがいるから」

 だとしても怪我をするほどのやばいゲームに一人で参戦という無謀さがサキらしかった。

「見つかりそう?」

「いいや。髪の毛一本の消息もない」

 もしサキのおばさんが青墓に向かったとしたら、きっとどこかに記憶の糸があるはずだった。

だから、あたしはサキの捜索に協力できる。

「手伝うよ」

「どうやって?」

「あたしも『R』に参戦したい」

「フジノジョシが? 本気か?」

 そんなに驚かなくても、

「本気だよ」

 サキはしばらく考えたあと、

「マジで命の保証はないよ」

 と言った。

「サキだってこれまで生き延びて来たじゃない」 

「逃げ回ってたんだよ。強そうな人を盾にして。そうやっておばさんを探してる。出玉のタイミングも分かって来たし、なんとか続けられてる」

 だから出玉って何?

 あたしはサキのパーティーの「傭兵」という形で参戦させてもらえることになった。

『R』のルールは簡単だった。

プレイヤーはパーティーを組んで参戦し、青墓にスポーンするエネミー相手に戦い、得点を競うという。

そして「出玉」というのは、エネミーの改・ドラキュラとカーミラ・亜種という二種の怪物がスポーンすることだとわかった。

同時にスポーン場所がスマフォのアプリにポイントされるという、流行りの位置ゲー要素もあるようだ。

 その時サキが見せてくれたエネミーのイラスト付きクリアファイルは見たことがあった。

以前ミユウがくれたのだったが、何の説明もなかったのでほぼ忘れていた。

それにしてもこんなおぞましい敵と好んで戦うなんて、皆さんどうかしている。

「で、これがグッズ」

 とサキにリストを渡され、

「時間いい?」

「どうして?」

 と聞き返すと、

「調達しに行こう。駅前通りのスーパーヤオマンで買える」

 命がけのサバイバルゲームにしてはお手軽に用具が揃うんだと思った。

「まあ、付いてきなって」

 いつになく軽い足取りのサキの後から、あたしはスーパーヤオマンへ向かうことになったのだった。

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