「書かれた辻沢 40」
文字数 2,205文字
ミユウのスマフォに非登録の番号から電話がかかってきた。出てみると、
「ミヤミユ、お盆でヒマだからお買い物行かない?」
クロエだった。スマフォを失くしたので調家の家電からかけているという。
あたしはコテージに籠りっぱなしで気が変になりそうだったし、その後のクロエの様子も見たかったので、ミユウのカレー☆パンマンのパーカーを着こんで出かけることにした。
会ってみた感じではクロエはすでに立ち直ったようだった。
顔色もいいし体調も変わりないと言った。
駅前の商店街の雑貨さんとかお洋服屋さんを回ってファミレスでご飯食べてまた買い物してカフェでお茶してと当たり前のコースだったが、久しぶりに大学のまったりした生活にもどったようで楽しかった。
スマフォがないのはクロエの位置を掴めなくてこっちも困るので、ゴリゴリモバイルショップに寄って安価なのを買ってもらい、ついでに追跡用のアプリも仕込んでおいた。
クロエは、並んで歩いている時もカフェのカウンターで話している時もあたしの二の腕をつついてきた。
あたしは知らぬ顔をしていたけれど、明らかに何かを確認するような感じだった。
もしかしたらミユウでないことに気付いているのかもしれない。
あたしがミユウに化ける理由がわからなくて探りを入れている感じだ。
だから、いつフジミユって呼ばれるかヒヤヒヤな一日を過ごしたのだった。
やはり直で会うのは危険すぎるかも。
次の日の夕方、これまでの資料まとめをしていると、紫子さんから電話があった。
「ケサさんが亡くなった」
ケサさん。四ツ辻の中の年長者で、記憶の糸にヒダルの影があると紫子さんに伝えた人だ。
ヒダルに取り変わられたのか、そうなる前に亡くなったのかはわからなかった。
「クロエちゃんは来るって言ってたけど、ミユキちゃんはいいよ」
昨日クロエはケサさんにお世話になったと言っていたばかりだ。
「後日必ずお線香上げに行きます」
「ありがとう」
電話が切れると、今度はミユウのスマフォにSメールが入った。クロエだ。
やはりケサさんのことだった。
ミユウならどうするだろうと考えていると、駐車場に車が入って来る音がした。
排気のボボボボという低音には聞き覚えがある。
次々と何かが起こる。
すぐにノックの音がしたが、そのあわただしさまであの時と一緒だった。
「ミユキいる?」
ユウさんの声。蹴破られるといけないので、大急ぎでドアを開けると、
「ちょっと、ついて来てくれない?」
と言われた。
「どうしました?」
「なんか、まめぞうたちの様子がおかしいんだよね」
この間、ユウさんが鬼子神社に青墓から連れ行った二人のことだ。
「勝手に四ツ辻に向かった」
すぐに動きやすい服に着替えて、ショルダーバッグにありたけの荷物を放り込んで、ユウさんの車に向かった。
真っ赤な高級車にはユウさんだけが待っていた。
もしや、まひるさんもと思ったが、いなかった。
なんでだろう、まひるさんに会いたくてしかたがない。
四ツ辻への山道は、ここ最近の大雨のせいで水浸しだった。
そんな危険な道をユウさんは猛スピードで駆け上って行く。
カーブはセンターラインを無視して突っ込んで行し、掴まっていても至る所に体がぶつかって、もう何が何だかわからなくなった。
これはもう生きて四ツ辻に着けないと覚悟したころ、公民館の前に到着した。
「この車、目立ちすぎるから隠してくる」
と言って、あたしをそこに降ろして車を停めるところを探しに行った。
すでに公民館には通夜の客もちらほら集まって来ていた。
そんな場所に真っ赤なスポーツカーが轟音と土煙を巻き上げて来たものだから、皆さん驚いた様子であたしを見ている。
いたたまれなくなって公民館の裏手の山椒畑に移動すると、ユウさんの赤い車が眼下の別の山椒畑に突っ込んで停めてあるのが見えた。
あれじゃ、隠したことにならないのでは?
「お待たせ。まだまめぞうたち来てないな」
ユウさんがあたしの横に立って、山の方角を見ながら言った。
「ここで待っていたら来ますかね」
「多分ね。葬式があって、まめぞうたちがご出陣ならここ以外ないって、ミユウが言ってたし」
とユウさんが言った。ミユウがそんなことを言ったのだとは知らなかった。
「ミユウが?」
「そう。夕霧物語は葬式だって。でもそれを聞いた時は腹が立ったんだよね」
そういえば「辻沢日記」にもミユウがそう言ってユウさんに叱られたという記述があった。
「どうして怒ったんです?」
と聞いたがユウさんはそれには答えずに、
「ここだと人目に付くからもっと森に近いところにいよう」
と山に向かって歩き出した。あたしもそれについて行く。
ユウさんは適当な所に腰を下ろしたと思ったら、そのまま仰向けに倒れて目を瞑った。
「少し寝るから」
と言って沈黙してしまった。
そこから雲間の月が四ツ辻を照らしているのが見渡せた。
山椒畑の上を夜風が吹き渡ってゆく。
由香里さんが設置しようとした役場のオブジェがここにあったらと想像してみる。
無理だわ。やっぱりあんなの置ける場所ではない。
そうこうしているうちにクロエがバスで到着して公民館の中に入って行った。
しばらくして、ミユウのスマフォに通夜の番をすることを伝えて来たので返事をしておいた。
クロエとユウさんと、もうそろまめぞうたちが来るという。
こんな状況、あたしでも何かが起こる予感がする。
どうやら今晩は、みんなでオールになりそうだった。
「ミヤミユ、お盆でヒマだからお買い物行かない?」
クロエだった。スマフォを失くしたので調家の家電からかけているという。
あたしはコテージに籠りっぱなしで気が変になりそうだったし、その後のクロエの様子も見たかったので、ミユウのカレー☆パンマンのパーカーを着こんで出かけることにした。
会ってみた感じではクロエはすでに立ち直ったようだった。
顔色もいいし体調も変わりないと言った。
駅前の商店街の雑貨さんとかお洋服屋さんを回ってファミレスでご飯食べてまた買い物してカフェでお茶してと当たり前のコースだったが、久しぶりに大学のまったりした生活にもどったようで楽しかった。
スマフォがないのはクロエの位置を掴めなくてこっちも困るので、ゴリゴリモバイルショップに寄って安価なのを買ってもらい、ついでに追跡用のアプリも仕込んでおいた。
クロエは、並んで歩いている時もカフェのカウンターで話している時もあたしの二の腕をつついてきた。
あたしは知らぬ顔をしていたけれど、明らかに何かを確認するような感じだった。
もしかしたらミユウでないことに気付いているのかもしれない。
あたしがミユウに化ける理由がわからなくて探りを入れている感じだ。
だから、いつフジミユって呼ばれるかヒヤヒヤな一日を過ごしたのだった。
やはり直で会うのは危険すぎるかも。
次の日の夕方、これまでの資料まとめをしていると、紫子さんから電話があった。
「ケサさんが亡くなった」
ケサさん。四ツ辻の中の年長者で、記憶の糸にヒダルの影があると紫子さんに伝えた人だ。
ヒダルに取り変わられたのか、そうなる前に亡くなったのかはわからなかった。
「クロエちゃんは来るって言ってたけど、ミユキちゃんはいいよ」
昨日クロエはケサさんにお世話になったと言っていたばかりだ。
「後日必ずお線香上げに行きます」
「ありがとう」
電話が切れると、今度はミユウのスマフォにSメールが入った。クロエだ。
やはりケサさんのことだった。
ミユウならどうするだろうと考えていると、駐車場に車が入って来る音がした。
排気のボボボボという低音には聞き覚えがある。
次々と何かが起こる。
すぐにノックの音がしたが、そのあわただしさまであの時と一緒だった。
「ミユキいる?」
ユウさんの声。蹴破られるといけないので、大急ぎでドアを開けると、
「ちょっと、ついて来てくれない?」
と言われた。
「どうしました?」
「なんか、まめぞうたちの様子がおかしいんだよね」
この間、ユウさんが鬼子神社に青墓から連れ行った二人のことだ。
「勝手に四ツ辻に向かった」
すぐに動きやすい服に着替えて、ショルダーバッグにありたけの荷物を放り込んで、ユウさんの車に向かった。
真っ赤な高級車にはユウさんだけが待っていた。
もしや、まひるさんもと思ったが、いなかった。
なんでだろう、まひるさんに会いたくてしかたがない。
四ツ辻への山道は、ここ最近の大雨のせいで水浸しだった。
そんな危険な道をユウさんは猛スピードで駆け上って行く。
カーブはセンターラインを無視して突っ込んで行し、掴まっていても至る所に体がぶつかって、もう何が何だかわからなくなった。
これはもう生きて四ツ辻に着けないと覚悟したころ、公民館の前に到着した。
「この車、目立ちすぎるから隠してくる」
と言って、あたしをそこに降ろして車を停めるところを探しに行った。
すでに公民館には通夜の客もちらほら集まって来ていた。
そんな場所に真っ赤なスポーツカーが轟音と土煙を巻き上げて来たものだから、皆さん驚いた様子であたしを見ている。
いたたまれなくなって公民館の裏手の山椒畑に移動すると、ユウさんの赤い車が眼下の別の山椒畑に突っ込んで停めてあるのが見えた。
あれじゃ、隠したことにならないのでは?
「お待たせ。まだまめぞうたち来てないな」
ユウさんがあたしの横に立って、山の方角を見ながら言った。
「ここで待っていたら来ますかね」
「多分ね。葬式があって、まめぞうたちがご出陣ならここ以外ないって、ミユウが言ってたし」
とユウさんが言った。ミユウがそんなことを言ったのだとは知らなかった。
「ミユウが?」
「そう。夕霧物語は葬式だって。でもそれを聞いた時は腹が立ったんだよね」
そういえば「辻沢日記」にもミユウがそう言ってユウさんに叱られたという記述があった。
「どうして怒ったんです?」
と聞いたがユウさんはそれには答えずに、
「ここだと人目に付くからもっと森に近いところにいよう」
と山に向かって歩き出した。あたしもそれについて行く。
ユウさんは適当な所に腰を下ろしたと思ったら、そのまま仰向けに倒れて目を瞑った。
「少し寝るから」
と言って沈黙してしまった。
そこから雲間の月が四ツ辻を照らしているのが見渡せた。
山椒畑の上を夜風が吹き渡ってゆく。
由香里さんが設置しようとした役場のオブジェがここにあったらと想像してみる。
無理だわ。やっぱりあんなの置ける場所ではない。
そうこうしているうちにクロエがバスで到着して公民館の中に入って行った。
しばらくして、ミユウのスマフォに通夜の番をすることを伝えて来たので返事をしておいた。
クロエとユウさんと、もうそろまめぞうたちが来るという。
こんな状況、あたしでも何かが起こる予感がする。
どうやら今晩は、みんなでオールになりそうだった。