「辻沢ノーツ 64」
文字数 1,401文字
サキは台所に立ってお湯を沸かし、カップラーメンの用意を始めた。
あたしにもとんこつ味とシーフード味とを勧めてくれたけどお腹が減ってなかったからどちらも断った。
サキはとんこつ味にお湯を入れて、ちゃぶ台の所まで持って来て置くと、1分も経たずに蓋を開け、バリバリと音をさせて食べはじめた。
「博多じゃ、全然茹でない麺のことハリガネって言うんだって」
ふーん。
「あの後さ」
あたしとホテルで分かれた後のこと。
「ノタのスマホにユウっていう名前で着信があって」
あの時知らないって言ったよね。
「ノタを誘い出すつもりだったらしいんだけど、気づかれて速攻で切られた」
人の電話に勝手に出てるし。
「それはいつ?」
「先週の木曜」
Nさんが亡くなる前だ。
「で、今日ノタから電話あったから、今度はノタに成りすましてウチを誘い出す気だと思ってね。ミユウの時みたく」
ミヤミユを誘い出したのはあたしじゃないって知ってるんだ。
あの時は疑ってごめんね、とかはなし?
「運営に取り入るチャンスだった。このままオーディエンスしてても何も進展しないし、向う側の人間になれれば、ディープな情報も開示してもらえると思って」
それで、運営会社に情報を流した。ユウは懸賞金かかってるから。
「で、今ココ。どうしよ、これから」
知るわけない。
泊まって行けばと言うのを断って、Aさん宅に帰ることにした。
「これ、リュック。中は見てないよ」
電話は出たけど? 携帯やっと戻って来たからゴリゴリホンは明日にでも解約しよう。
一人で帰ると言って出て来たけど、真夜中に暗い道を歩くのは勇気がいった。
林沿いの道を通る時、暗闇の奥から蛭人間が狙ってないか気が気でなかったし、丁字路の叢から砂漠のゾンビ旅団やユウが手を振ってるような錯覚を覚えた。
しばらく行くと猫分川の土手に出た。猫分川は上流で名曳川と別れて辻沢を舟形に囲うもう一つの川だ。
河原を吹きわたって来た風で一気に汗が引いて行く。
土手の上は月が明るく照らし遠くまで見渡せた。
この道をずっと歩いて行ったらどこに辿りつくんだろう。
このまま誰にも会わないで、どこにもいきつかなかったらどうしよう。
でも、それはそれでいい気がした。
これまでずっとそうだったから。
街の明りが見えて来るにつれ、ちらほら人と行き違うことが多くなってきた。
急にフジミユと話したくなった。
戻って来たスマホで電話を掛けようとしたら電源が切れていた。
かわりにゴリゴリホンでミヤミユにメッセージする。
[ クロ(何してる?)
ミヤ(寝てた。クロエは?)
クロ(歩いてる)
ミヤ(夜中だぞ)
クロ(もうすぐAさんちだから)
ミヤ(何かあった?)
クロ(何もないよw)
ミヤ(平気?)
クロ(ミヤミユこそ本当に平気?)
ミヤ(何のこと?)
クロ(何でもない)
クロ(もう着いた)
ミヤ(はよねろヨ)
クロ(うん。おやすむ)
ミヤ(おやすみ)
]
そこは「おやすむ」だよ、ミヤミユ。
どうやらこのミヤミユは、あの時のやりとりを忘れてしまったらしい。
街に入ったら、数人の集団が頭にすり鉢をかぶって大声で叫びながら大通りを走って行くのが見えた。
あたしにもとんこつ味とシーフード味とを勧めてくれたけどお腹が減ってなかったからどちらも断った。
サキはとんこつ味にお湯を入れて、ちゃぶ台の所まで持って来て置くと、1分も経たずに蓋を開け、バリバリと音をさせて食べはじめた。
「博多じゃ、全然茹でない麺のことハリガネって言うんだって」
ふーん。
「あの後さ」
あたしとホテルで分かれた後のこと。
「ノタのスマホにユウっていう名前で着信があって」
あの時知らないって言ったよね。
「ノタを誘い出すつもりだったらしいんだけど、気づかれて速攻で切られた」
人の電話に勝手に出てるし。
「それはいつ?」
「先週の木曜」
Nさんが亡くなる前だ。
「で、今日ノタから電話あったから、今度はノタに成りすましてウチを誘い出す気だと思ってね。ミユウの時みたく」
ミヤミユを誘い出したのはあたしじゃないって知ってるんだ。
あの時は疑ってごめんね、とかはなし?
「運営に取り入るチャンスだった。このままオーディエンスしてても何も進展しないし、向う側の人間になれれば、ディープな情報も開示してもらえると思って」
それで、運営会社に情報を流した。ユウは懸賞金かかってるから。
「で、今ココ。どうしよ、これから」
知るわけない。
泊まって行けばと言うのを断って、Aさん宅に帰ることにした。
「これ、リュック。中は見てないよ」
電話は出たけど? 携帯やっと戻って来たからゴリゴリホンは明日にでも解約しよう。
一人で帰ると言って出て来たけど、真夜中に暗い道を歩くのは勇気がいった。
林沿いの道を通る時、暗闇の奥から蛭人間が狙ってないか気が気でなかったし、丁字路の叢から砂漠のゾンビ旅団やユウが手を振ってるような錯覚を覚えた。
しばらく行くと猫分川の土手に出た。猫分川は上流で名曳川と別れて辻沢を舟形に囲うもう一つの川だ。
河原を吹きわたって来た風で一気に汗が引いて行く。
土手の上は月が明るく照らし遠くまで見渡せた。
この道をずっと歩いて行ったらどこに辿りつくんだろう。
このまま誰にも会わないで、どこにもいきつかなかったらどうしよう。
でも、それはそれでいい気がした。
これまでずっとそうだったから。
街の明りが見えて来るにつれ、ちらほら人と行き違うことが多くなってきた。
急にフジミユと話したくなった。
戻って来たスマホで電話を掛けようとしたら電源が切れていた。
かわりにゴリゴリホンでミヤミユにメッセージする。
[ クロ(何してる?)
ミヤ(寝てた。クロエは?)
クロ(歩いてる)
ミヤ(夜中だぞ)
クロ(もうすぐAさんちだから)
ミヤ(何かあった?)
クロ(何もないよw)
ミヤ(平気?)
クロ(ミヤミユこそ本当に平気?)
ミヤ(何のこと?)
クロ(何でもない)
クロ(もう着いた)
ミヤ(はよねろヨ)
クロ(うん。おやすむ)
ミヤ(おやすみ)
]
そこは「おやすむ」だよ、ミヤミユ。
どうやらこのミヤミユは、あの時のやりとりを忘れてしまったらしい。
街に入ったら、数人の集団が頭にすり鉢をかぶって大声で叫びながら大通りを走って行くのが見えた。