「書かれた辻沢 22」

文字数 1,577文字

 スーパーヤオマンにはいると、正面が食料品で右手の奥が衣料品売り場だった。

サキは衣料品売り場の中を突っ切って「トイレはこちら」の案内がある出口に一直線に向かって行く。

緊急事態なの? と思ったがそうではなかった。

サキを追いかけて出口を抜けると、右手のトイレと反対の壁沿いに細い通路があったのだ。

サキはそこをさらに進み、すりガラスのアルミドアの前で立ち止まると、

「ここ」

 と言って扉に手を掛けた。

レールが砂を噛んでスライドしにくくなった扉を力づくで開くと、中はいかにもなサバイバルショップだった。

迷彩服を着たマネキン数体。高そうなガジェットが並んだガラスケース。壁一面に武器らしきものが飾ってある。

 店の中央にすり鉢が幾つも重ねて置いてあって、それを見ていると、

「それは運営推奨の防具なんだけど、いらね、ジッサイ」

 とサキが言った。防具? どうやって使うんだろう。

「被るんだ」

 こんな重いすり鉢を? バカなの?

「摺れて髪が傷んじゃう」

 そう言ったら、

「そちらは、専用鉢巻をして被っていただきますので」

 と横から店員さんが声を掛けて来た。

 にしてもだ。

 店員さんには笑顔だけで返して、サキの案内で必需品を見て回る。

「これは、初心者にも扱いやすい武器」

 と渡されたのは、銀色で先が少し尖った短い棒だった。

「水平リーベ棒。本当は健康グッズなんだけど、たまたま使ったユーザーが改・ドラキュラを撃退したのが口コミで広がって、今じゃデファクト」

 ひんやりとして少し重く手によくフィットした。

振り回してみても人気なのが分かるほど扱いよさげだった。

「ウチはあれを使ってる」

 サキが指さしたのは、壁の上のほうにある木刀だった。

「辻沢産山椒の木で出来てる」

 値段はお小遣いでは買えないくらいした。

その下に樫製と書かれたリーズナブルな木刀があったので、

「こっちのじゃだめなの?」

 と聞くと、

「やっぱ山椒の木ってのがマストっぽい。敵の動きを封じるには」

「封じる?」

「そう。当たっただけで何故か動きが鈍くなる」

 二人で色々見ていると、

「こちらはいかがでしょう?」

 と先ほどの店員が声を掛けて来た。

振り返ると、大事そうに布でくるんだ一振りの木刀を抱え持っていた。

「黒山椒の木刀か」

 サキが前のめりすぎて目がギンギンになっている。

「百年生の山椒の木の芯が黒色硬化したものを使ったという」

「よくご存じですね、こちらはヴァンパイアにも効果があります。いかがですか?」

 値札のタグをチラ見すると軽自動車が買えるくらいだった。無理無理。

「噂には聞いてたけど、見たのは初めてだよ」

 手を出して触れようとしているサキの袖を持って店員から引きはがす。

このままだとリボ払いしてでも買いそうな勢いだったから。

リボ払いは砂地獄。ダメ絶対!

「あたしの身の丈にあったのが欲しい」

 とサキに言うと、憑き物が落ちたように、

「そうだった。ゴメン」

 と言って改めてグッズを選んでくれた。

 結局買ったのは水平リーベ棒と、工事用ヘルメットを迷彩柄に塗装し直したもの。

『R』は深夜開催なのでヘッドライト付きを勧められたけれど調査用(クロエ追跡用)の着脱式のがあるのでこっち。

レディースの迷彩服はサイズがなく別の店で買うことにした。

あとはショルダーバッグだと動きが鈍るからと小ぶりのリュックを一つ。

それと『R』の大きい缶バッチも。銀色の地に赤い文字で○にRとあるやつで、お会計の時リュックに付けてもらった。

 スーパーヤオマンを出た。

「じゃあ、今週末の夜11時に」

 あと3日あるな。

「部屋に迎えにいくね」

 と言うとサキが、

「これでフジノジョシもいっぱしのスレーヤーだ。スレーヤー」

 とハイタッチの恰好をしたから例のハンドサインかと思って手を合わせようとしたら、よけられた。

「何?」

「スレーヤーは、タッチしない」

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