「書かれた辻沢 114」
文字数 1,872文字
次のエリアは少し開けた場所だった。そこでもひだるさまが集まり戦いあっていた。
あたしたちが藪の縁で様子をうかがっていると、数体のひだるさまが木の上から飛び降りて襲ってきた。
それらは他に目もくれず一斉にまひるさんに襲い掛かったと見ると、一瞬でまひるさんの手足を捉えて再び樹上に逃げ去ってしまった。
ユウさんが木の幹を駆け上り追いかける。アレクセイもそれに続こうとしたが、
「ミユキたちを頼む」
と言われて、あたしたちのもとに戻ってきた。
「お守りだって。大人なのに」
と憎まれ口を叩く。
それからしばらくの間はアレクセイとクロエ、それとあたしの3人でひだるさまの攻勢を凌いだ。と言っても戦うのはアレクセイばかりだった。
攻撃が止んで一息ついているときアレクセイが、
「もうちょっと、なんとかならない。その人」
とクロエのことを顎で指して言った。それは、クロエがあたしが防ぎきれないような緊急時にしかパーツ発現しないことを言っていた。
「でも、これ以上だとどうなるか分かんないから」
とクロエが申し訳なさそうに答えると、
「なわけ。使い魔のときと全然ちがうじゃん」
そういえばアレクセイは一時クロエを使い魔にしていたのだった。
「君さ、使い魔の扱い方知らないんじゃない?」
とアレクセイがあたしに向かって言う。
「クロエは使い魔じゃないから」
あたしは鬼子使いだ。ヴァンパイアのように相手の心を支配などしない。
「制御しようとしてるでしょ?」
発現は未知数が大きすぎるのだ。放っておけばクロエの言うようにどうなるかわからない、制御するしかない。
「僕は使い魔を制御なんてしないけどね」
「でも支配するでしょ?」
そう言うとアレクセイは笑いながら、
「支配も制御も同じことだと気づいてないの? 大人なのに」
大人は余計だけど、確かにそうだった。あたしはクロエを支配しようとしていたのかもしれなかった。
「僕だって、この人のこと制御なんてできないよ」
「じゃあ、どうやって操ってたの?」
「操ってすらいないよ。要は自由にさせてただけ。したいようにね」
あたしたちの情報をアレクセイに流したり、真っ先に四ツ辻に乗り込んだりっていうのはクロエがしたかったことだって言うのだろうか?
……。
あー、クロエならするよな、そういうこと。なんで気が付かなかったか。
「その自由にさせるってのがスキルなんだけどね」
アレクセイはそう言うと、クロエに向かって、
「楽しい? 今」
と聞いた。するとクロエはあたしの顔色をうかがうような表情をしながら、
「つまんない」
と言ったのだった。
クロエー、貴様!
「だって、ダメって言われるより、いいよって言ってもらったほうが楽しいでしょ?」
分からないではないけれど、
「それで発現したらクロエはどうなるの?」
するとクロエはまっすぐな目であたしを見て、
「ユウになるんだよ」
と言ったのだった。
ユウさんは潮時を乗り越え鬼子を極めた人だ。それに一朝一夕で追いつけるとは思えない。
でも、それはあたしの思い込みで、それこそがクロエの心に制約を設けてしまっているのかもしれなかった。
「じゃあ、やってみる?」
あたしが恐る恐る聞くと、
「うん。次、行ってみよう」
か、軽い。もう少し悩め。クロエ。
「ただいま」
背後で声がした。
振り返るとユウさんが立っていてまひるさんが肩で支えられていた。
「お帰りな……」
と言いかけて息をのんだ。
まひるさんの右腕がなかったのだ。
それに気づいたクロエが泣き叫びながらまひるさんにすがりつく。
すると、まひるさんは、
「大丈夫です。3日あればもとに戻りますから」
とクロエを慰めたのだったが、
「その3日間、どうやってほっぺをさすってくれるの?」
と駄々をこねるクロエを、
「右手があるから」
と引きはがす。そしてユウさんに、
「何があったんですか?」
と聞くと、
「追いつめたら、まひるの腕を切り取って逃げた」
と言ったのだった。
そのことに理由があるのか、たまたまだったのかはわからない。
しかし、そういうひだるさまもいるということだけは知れたのだった。
その後、再びあたしたちは戦いの渦中にいた。
まひるさんは利き腕をなくして苦戦するかと思ったら、これまでとまったく遜色ない戦いを繰り広げていた。
「まひは連覇がかかった大会で利き腕を負傷してて優勝したんだよ」
とクロエが教えてくれた。
まひるさんが世界的スーパーゲードルだった理由がよくわかった。
それは人の期待を絶対に裏切らないからだ。しかもドラマチックに。
さあ、次はあたしたちの番だ。クロエ、行くよ!
あたしたちが藪の縁で様子をうかがっていると、数体のひだるさまが木の上から飛び降りて襲ってきた。
それらは他に目もくれず一斉にまひるさんに襲い掛かったと見ると、一瞬でまひるさんの手足を捉えて再び樹上に逃げ去ってしまった。
ユウさんが木の幹を駆け上り追いかける。アレクセイもそれに続こうとしたが、
「ミユキたちを頼む」
と言われて、あたしたちのもとに戻ってきた。
「お守りだって。大人なのに」
と憎まれ口を叩く。
それからしばらくの間はアレクセイとクロエ、それとあたしの3人でひだるさまの攻勢を凌いだ。と言っても戦うのはアレクセイばかりだった。
攻撃が止んで一息ついているときアレクセイが、
「もうちょっと、なんとかならない。その人」
とクロエのことを顎で指して言った。それは、クロエがあたしが防ぎきれないような緊急時にしかパーツ発現しないことを言っていた。
「でも、これ以上だとどうなるか分かんないから」
とクロエが申し訳なさそうに答えると、
「なわけ。使い魔のときと全然ちがうじゃん」
そういえばアレクセイは一時クロエを使い魔にしていたのだった。
「君さ、使い魔の扱い方知らないんじゃない?」
とアレクセイがあたしに向かって言う。
「クロエは使い魔じゃないから」
あたしは鬼子使いだ。ヴァンパイアのように相手の心を支配などしない。
「制御しようとしてるでしょ?」
発現は未知数が大きすぎるのだ。放っておけばクロエの言うようにどうなるかわからない、制御するしかない。
「僕は使い魔を制御なんてしないけどね」
「でも支配するでしょ?」
そう言うとアレクセイは笑いながら、
「支配も制御も同じことだと気づいてないの? 大人なのに」
大人は余計だけど、確かにそうだった。あたしはクロエを支配しようとしていたのかもしれなかった。
「僕だって、この人のこと制御なんてできないよ」
「じゃあ、どうやって操ってたの?」
「操ってすらいないよ。要は自由にさせてただけ。したいようにね」
あたしたちの情報をアレクセイに流したり、真っ先に四ツ辻に乗り込んだりっていうのはクロエがしたかったことだって言うのだろうか?
……。
あー、クロエならするよな、そういうこと。なんで気が付かなかったか。
「その自由にさせるってのがスキルなんだけどね」
アレクセイはそう言うと、クロエに向かって、
「楽しい? 今」
と聞いた。するとクロエはあたしの顔色をうかがうような表情をしながら、
「つまんない」
と言ったのだった。
クロエー、貴様!
「だって、ダメって言われるより、いいよって言ってもらったほうが楽しいでしょ?」
分からないではないけれど、
「それで発現したらクロエはどうなるの?」
するとクロエはまっすぐな目であたしを見て、
「ユウになるんだよ」
と言ったのだった。
ユウさんは潮時を乗り越え鬼子を極めた人だ。それに一朝一夕で追いつけるとは思えない。
でも、それはあたしの思い込みで、それこそがクロエの心に制約を設けてしまっているのかもしれなかった。
「じゃあ、やってみる?」
あたしが恐る恐る聞くと、
「うん。次、行ってみよう」
か、軽い。もう少し悩め。クロエ。
「ただいま」
背後で声がした。
振り返るとユウさんが立っていてまひるさんが肩で支えられていた。
「お帰りな……」
と言いかけて息をのんだ。
まひるさんの右腕がなかったのだ。
それに気づいたクロエが泣き叫びながらまひるさんにすがりつく。
すると、まひるさんは、
「大丈夫です。3日あればもとに戻りますから」
とクロエを慰めたのだったが、
「その3日間、どうやってほっぺをさすってくれるの?」
と駄々をこねるクロエを、
「右手があるから」
と引きはがす。そしてユウさんに、
「何があったんですか?」
と聞くと、
「追いつめたら、まひるの腕を切り取って逃げた」
と言ったのだった。
そのことに理由があるのか、たまたまだったのかはわからない。
しかし、そういうひだるさまもいるということだけは知れたのだった。
その後、再びあたしたちは戦いの渦中にいた。
まひるさんは利き腕をなくして苦戦するかと思ったら、これまでとまったく遜色ない戦いを繰り広げていた。
「まひは連覇がかかった大会で利き腕を負傷してて優勝したんだよ」
とクロエが教えてくれた。
まひるさんが世界的スーパーゲードルだった理由がよくわかった。
それは人の期待を絶対に裏切らないからだ。しかもドラマチックに。
さあ、次はあたしたちの番だ。クロエ、行くよ!