「書かれた辻沢 74」
文字数 1,956文字
眼下には明るい空間が広がっているのが見えた。
落ち葉の海の中に張り出ていた木の枝が下に向かって一カ所に集中している。
おそらくそこが山椒の古木が生える塚だろう。
あたしたちは木の枝の中心に引き寄せられるように降りて行く。
やがてゆっくりとあたしたちは着地した。
目の前が墓石が積まれた小さな塚だ。墓石は苔むし、以前来た時と同じ様子でそこにあった。
あたしたちは繋いだ手を放して塚へと進む。
「入るよ」
ユウさんが入り口の墓石の前に立った。
みんなもその後ろに立っている。
ふと後ろに気配を感じて振り向くと、そこに屍人ではないミユウが立っていた。
一緒にここまで降りて来てくれたんだと思ったけれど、そのミユウに気付いたのはあたしだけのようだった。
ユウさんが墓石を押して塚の中に入って行く。
続いてサキが、そしてまひるさん、その後からクロエ、最後にあたしの順だった。
石室の中は壁の苔が光って中はほの明るかった。
中に入ると総毛立つのは前と同じで、下から上に乳白色の水滴が滴り天井に乳白色の水たまりが出来ているのも一緒だった。
「ちょっと、待とう」
とユウさんが言ったので、あたしは、
「何を待つんですか?」
と聞いた。すると、
「夕霧だよ」
と言ったのだった。
それであたしはようやく今晩ここに来た理由を悟ったのだった。
エニシの糸の切り替え。
だからユウさんはみんなをここに連れてきたのだ。
やがて
「わがちをふふめおにこらや」
という声が聞こえ、屍人の母宮木野が現れた。そして二人の乳児を胸に抱き乳をやり始める。
その双子はすくすくと大きくなり、ひとりで歩けるようになって石室から出て行った。
「わがちをふふめおにこらや」
再び声がした。
「くる」
ユウさんが言うと、天井に臍の緒を付けた赤子を抱いた若い母宮木野が現れた。
そしてあの惨劇を目の当たりにすると、次第に乳白色の水たまりが真っ赤な血の色に染まり出す。
「誰かサキを肩車してあげて」
とユウさんが言うのであたしが、サキのところに寄って肩車しようとすると、
「変なことするなよ」
とユウさんがきつめにサキに言った。サキはそれには小さく頷く。
ところがあたしがサキのことを持ち上げようとしても、まるで岩石かなにかのように重くて歯が立たなかった。
何度も腰を入れ直して持ち上げようとしたけれど、びくともしないのだ。
「ダメです。持ち上がらない」
と尻餅をついて言うと、
「まひる」
とユウさんがまひるさんに変わるように言った。
するとまひるさんは普通にサキのことを持ち上げてしまったのだった。
「どうして?」
と言うと、まひるさんが
「コツがあるのです」
と言ったのだった。コツとかそんなことで何とかできる重さではなかったのだが。
「じゃあ、ミユキはクロエを肩車してやって」
と言われてクロエを持ち上げると、今度は普通に持ち上がった。
なんか不可解な気分だった。
「それじゃ、二人とも天井の水たまりに腕を付けて。サキは左、クロエは右ね」
と言った。
クロエはユウさんに言われて直ぐに右手を突き上げて赤い水に浸したけれど、サキはユウさんを睨み付けるような表情でしばらくとまどっていた。
けれどユウさんに、
「けちんぼ池に行きたいんだろ」
と言われて、おもむろに血の池に左手を付けた。
すると、クロエが右手を突き上げたまま全身を震わせ始めた。
同時に両の太ももであたしのことを締め上げる。ものすごい力だ。
あたしは、何度もそっくり返って倒れそうになった。
それでも支えていられたのは、いくら上で暴れようとクロエの右手が血の池から抜けることはなかったからだった。
「ユウさん、クロエが死んじゃう!」
とあたしが叫ぶと、ユウさんが、
「クロエ! 頑張れ! まひるから制服貰うんだろ!」
「頑張るーーー!」
と、クロエは叫んだ。どこまでもオタク道を貫くクロエなのだった。
ようやくクロエの振動も収まってきた。
まひるさんを見るといたって普通にしている。
上のサキはまったく微動だにしていなかったようだった。
サキなど自分の腕に唇を近づけてそこに伝わっている赤い液体をなめ取っている。
本当に気味が悪い。どうしてユウさんはこんなやつを5人の仲間にしようと思ったのだろう。
それが不思議でならなかった。
クロエの右腕がだらりと垂れた。
「降ろしていいよ」
ユウさんの合図でクロエを下に降ろしてあげようとしたら、あたしは足がふらついて石室の床にクロエを転がせてしまった。
「大丈夫?」
「平気。これで恋血の制服ゲット!」
とまひるさんに向かって親指を立てた。
まひるさんはそんなクロエを見て微笑み返す。
「なんか感じるか?」
ユウさんがクロエの腕を取って立たせながら聞いた。
「うん。いろいろ。あのサキが偽物ってこととか」
と、クロエは言わんでいいことを口にしたのだった。
落ち葉の海の中に張り出ていた木の枝が下に向かって一カ所に集中している。
おそらくそこが山椒の古木が生える塚だろう。
あたしたちは木の枝の中心に引き寄せられるように降りて行く。
やがてゆっくりとあたしたちは着地した。
目の前が墓石が積まれた小さな塚だ。墓石は苔むし、以前来た時と同じ様子でそこにあった。
あたしたちは繋いだ手を放して塚へと進む。
「入るよ」
ユウさんが入り口の墓石の前に立った。
みんなもその後ろに立っている。
ふと後ろに気配を感じて振り向くと、そこに屍人ではないミユウが立っていた。
一緒にここまで降りて来てくれたんだと思ったけれど、そのミユウに気付いたのはあたしだけのようだった。
ユウさんが墓石を押して塚の中に入って行く。
続いてサキが、そしてまひるさん、その後からクロエ、最後にあたしの順だった。
石室の中は壁の苔が光って中はほの明るかった。
中に入ると総毛立つのは前と同じで、下から上に乳白色の水滴が滴り天井に乳白色の水たまりが出来ているのも一緒だった。
「ちょっと、待とう」
とユウさんが言ったので、あたしは、
「何を待つんですか?」
と聞いた。すると、
「夕霧だよ」
と言ったのだった。
それであたしはようやく今晩ここに来た理由を悟ったのだった。
エニシの糸の切り替え。
だからユウさんはみんなをここに連れてきたのだ。
やがて
「わがちをふふめおにこらや」
という声が聞こえ、屍人の母宮木野が現れた。そして二人の乳児を胸に抱き乳をやり始める。
その双子はすくすくと大きくなり、ひとりで歩けるようになって石室から出て行った。
「わがちをふふめおにこらや」
再び声がした。
「くる」
ユウさんが言うと、天井に臍の緒を付けた赤子を抱いた若い母宮木野が現れた。
そしてあの惨劇を目の当たりにすると、次第に乳白色の水たまりが真っ赤な血の色に染まり出す。
「誰かサキを肩車してあげて」
とユウさんが言うのであたしが、サキのところに寄って肩車しようとすると、
「変なことするなよ」
とユウさんがきつめにサキに言った。サキはそれには小さく頷く。
ところがあたしがサキのことを持ち上げようとしても、まるで岩石かなにかのように重くて歯が立たなかった。
何度も腰を入れ直して持ち上げようとしたけれど、びくともしないのだ。
「ダメです。持ち上がらない」
と尻餅をついて言うと、
「まひる」
とユウさんがまひるさんに変わるように言った。
するとまひるさんは普通にサキのことを持ち上げてしまったのだった。
「どうして?」
と言うと、まひるさんが
「コツがあるのです」
と言ったのだった。コツとかそんなことで何とかできる重さではなかったのだが。
「じゃあ、ミユキはクロエを肩車してやって」
と言われてクロエを持ち上げると、今度は普通に持ち上がった。
なんか不可解な気分だった。
「それじゃ、二人とも天井の水たまりに腕を付けて。サキは左、クロエは右ね」
と言った。
クロエはユウさんに言われて直ぐに右手を突き上げて赤い水に浸したけれど、サキはユウさんを睨み付けるような表情でしばらくとまどっていた。
けれどユウさんに、
「けちんぼ池に行きたいんだろ」
と言われて、おもむろに血の池に左手を付けた。
すると、クロエが右手を突き上げたまま全身を震わせ始めた。
同時に両の太ももであたしのことを締め上げる。ものすごい力だ。
あたしは、何度もそっくり返って倒れそうになった。
それでも支えていられたのは、いくら上で暴れようとクロエの右手が血の池から抜けることはなかったからだった。
「ユウさん、クロエが死んじゃう!」
とあたしが叫ぶと、ユウさんが、
「クロエ! 頑張れ! まひるから制服貰うんだろ!」
「頑張るーーー!」
と、クロエは叫んだ。どこまでもオタク道を貫くクロエなのだった。
ようやくクロエの振動も収まってきた。
まひるさんを見るといたって普通にしている。
上のサキはまったく微動だにしていなかったようだった。
サキなど自分の腕に唇を近づけてそこに伝わっている赤い液体をなめ取っている。
本当に気味が悪い。どうしてユウさんはこんなやつを5人の仲間にしようと思ったのだろう。
それが不思議でならなかった。
クロエの右腕がだらりと垂れた。
「降ろしていいよ」
ユウさんの合図でクロエを下に降ろしてあげようとしたら、あたしは足がふらついて石室の床にクロエを転がせてしまった。
「大丈夫?」
「平気。これで恋血の制服ゲット!」
とまひるさんに向かって親指を立てた。
まひるさんはそんなクロエを見て微笑み返す。
「なんか感じるか?」
ユウさんがクロエの腕を取って立たせながら聞いた。
「うん。いろいろ。あのサキが偽物ってこととか」
と、クロエは言わんでいいことを口にしたのだった。