「辻沢日記 19」
文字数 1,415文字
なんだか周りが騒がしかった。
N市で乗り換えてしばらくして昨晩からの疲れで眠てしまったらしい。
電車は特急待ちなのか、駅に停車中だった。
初めはその騒がしさは通学時間にあたっただけだと思っていたけれど、そうではなかった。
その中の一人が、
「それって、青血の制服ですよね。RIBの」
と小声で聞いてきた。
目を上げると、あたしの周りのJK率がやたら高いことに気が付いた。
そしてその全員があたしを見下ろしている。
「そのレプリカ、どこで買ったんですか? それって夜野まひるヴァージョンですよね?」
と腕章を指さして言う。
まさか夜野まひるから直接もらった本物とは言えないので、
「ヤオマンビレッジのコスプレ売り場で」
と適当に返事をしたら、
「府中のですか? ほんと? あそこ品ぞろえ最悪だけど」
とだんだん語気が強くなってくる。
「そもそもマヒの制服は既製品ないし」
「マヒは唯一絶対だもん」
扉側にいたツインテールのJKが胸の前にグーを作って体を乗り出し気味で言った。
そのグーで殴りかかって来るじゃないかと不安になった。
追悼ライブに夜野まひるのコスプレをしてきた人をコアなファンがボコった動画をネットで見たことがあったから。
スマフォを向けられていないか不安になった。
「誰も真似しないでほしい」
すすり泣きしているJKまでいる。
「お前アンチだろ」
「わざわざそんなの作って着て」
「悲しみに暮れるウチらへの当てつけか」
「いつまで着てんの、脱ぎなよ」
「脱げってば」
目の前のJKが袖をつかもうとしてきたのを手で払い、立ちふさがるJKを突き飛ばして通勤の人たちで込み合う車内を掻き分け電車を降りた。
ドアが閉まって電車が走り出すと、あたしは用もない駅に取り残されたことに気が付いた。
そして、この制服を着ていいのはやはり夜野まひるだけなんだと肝に銘じた。
寮に帰るとミユキが出迎えてくれた。
顔が見られてこれほどホットしたことはなかった。
中に入ろうとすると慌てた様子で待ってと言う。
なんだか嫌な感じがしたから、無理に押し入ろうとすると、
「クロエが泊まりに来てるから、ね」
と言った。
いやらしい想像をした自分が恥ずかしくなった。
「着替えだけさせて」
と音をたてないように自分の部屋に行って、めっちゃ可愛いけど夜野まひる以外が着るとデンジャラスでしかない制服を着替えた。
クリーニングして返すべきなんだろうけど、次いつ会えるかわからないからしばらくは預かることになりそう。
制服をハンガーにかけてつるすと、ハッとした。
たしかにそこに夜野まひるがいたから。
まるで純白の羽根を広げた天使が舞い降りたかのように。
こういうことがあるからアイドルの存在ってすごいと思う。
出かけるとき、隣のミユキの部屋をのぞくと平和そうにクロエがタオルケットにくるまれて寝ていた。
ユウにそっくりなその顔を見ていると、あの時想像したユウとの二人だけの生活ってこんな感じかもなと思えてきて、かえって寂しさが募ってしまった。
大学入学後のガイダンスに出たら前の席にユウがいた。
一瞬奇跡が起こったかと思って、
「ユウなんで?」
と話しかけてしまった。
でもそれは同じ顔をした他人で、ノタクロエという子だった。
しばらく後、鞠野フスキにあの子は鬼子だよと言われた時は納得したけれど、
初めて見た時の印象からはクロエがそうだとは想像も出来なかった。
あたしがイメージしてきた鬼子の印象、ユウに植え付けられたものとはかけ離れていたからだった。
N市で乗り換えてしばらくして昨晩からの疲れで眠てしまったらしい。
電車は特急待ちなのか、駅に停車中だった。
初めはその騒がしさは通学時間にあたっただけだと思っていたけれど、そうではなかった。
その中の一人が、
「それって、青血の制服ですよね。RIBの」
と小声で聞いてきた。
目を上げると、あたしの周りのJK率がやたら高いことに気が付いた。
そしてその全員があたしを見下ろしている。
「そのレプリカ、どこで買ったんですか? それって夜野まひるヴァージョンですよね?」
と腕章を指さして言う。
まさか夜野まひるから直接もらった本物とは言えないので、
「ヤオマンビレッジのコスプレ売り場で」
と適当に返事をしたら、
「府中のですか? ほんと? あそこ品ぞろえ最悪だけど」
とだんだん語気が強くなってくる。
「そもそもマヒの制服は既製品ないし」
「マヒは唯一絶対だもん」
扉側にいたツインテールのJKが胸の前にグーを作って体を乗り出し気味で言った。
そのグーで殴りかかって来るじゃないかと不安になった。
追悼ライブに夜野まひるのコスプレをしてきた人をコアなファンがボコった動画をネットで見たことがあったから。
スマフォを向けられていないか不安になった。
「誰も真似しないでほしい」
すすり泣きしているJKまでいる。
「お前アンチだろ」
「わざわざそんなの作って着て」
「悲しみに暮れるウチらへの当てつけか」
「いつまで着てんの、脱ぎなよ」
「脱げってば」
目の前のJKが袖をつかもうとしてきたのを手で払い、立ちふさがるJKを突き飛ばして通勤の人たちで込み合う車内を掻き分け電車を降りた。
ドアが閉まって電車が走り出すと、あたしは用もない駅に取り残されたことに気が付いた。
そして、この制服を着ていいのはやはり夜野まひるだけなんだと肝に銘じた。
寮に帰るとミユキが出迎えてくれた。
顔が見られてこれほどホットしたことはなかった。
中に入ろうとすると慌てた様子で待ってと言う。
なんだか嫌な感じがしたから、無理に押し入ろうとすると、
「クロエが泊まりに来てるから、ね」
と言った。
いやらしい想像をした自分が恥ずかしくなった。
「着替えだけさせて」
と音をたてないように自分の部屋に行って、めっちゃ可愛いけど夜野まひる以外が着るとデンジャラスでしかない制服を着替えた。
クリーニングして返すべきなんだろうけど、次いつ会えるかわからないからしばらくは預かることになりそう。
制服をハンガーにかけてつるすと、ハッとした。
たしかにそこに夜野まひるがいたから。
まるで純白の羽根を広げた天使が舞い降りたかのように。
こういうことがあるからアイドルの存在ってすごいと思う。
出かけるとき、隣のミユキの部屋をのぞくと平和そうにクロエがタオルケットにくるまれて寝ていた。
ユウにそっくりなその顔を見ていると、あの時想像したユウとの二人だけの生活ってこんな感じかもなと思えてきて、かえって寂しさが募ってしまった。
大学入学後のガイダンスに出たら前の席にユウがいた。
一瞬奇跡が起こったかと思って、
「ユウなんで?」
と話しかけてしまった。
でもそれは同じ顔をした他人で、ノタクロエという子だった。
しばらく後、鞠野フスキにあの子は鬼子だよと言われた時は納得したけれど、
初めて見た時の印象からはクロエがそうだとは想像も出来なかった。
あたしがイメージしてきた鬼子の印象、ユウに植え付けられたものとはかけ離れていたからだった。