「辻沢日記 14」
文字数 1,606文字
ユウが車をぶっ飛ばして来たから青墓についたのはバスの人たちより早かったようだ。
駐車場に車を停めて、イベント時の集合場所になっている古い倉庫のある広場まで来てみたけれど、まだ誰もいなかった。
スレイヤーR・アプリのマップを見ると、相変わらず周囲は夥しいマーカで埋め尽くされている。
けれどもあたりには蛭人間の気配すら感じられなかった。
アプリの誤作動かもしれないと思って、ニュースタブを開いても、特に新しい情報はアップされてなかった。
興味なさげに立っているユウに聞いてみる。
「どう思う?」
するとユウがポケットからスマホを出してこちらに見せた。
その画面のマップにはマーカーが一つも表示されていなかった。
その画面でニュースタブにスワイプすると「システム障害のお知らせ」とあってマーカーの誤表示のことが書かれてあった。
「宮木野神社にいた奴のをくすねて来た。こっちがボクの」
と差し出された違うスマホの画面はあたしのものと同じように夥しい数のマーカで埋め尽くされていた。
これはどういうこと?
「罠だよ」
しれっとして言う。
「罠と知っててここまで来たの?」
「まあね。てか、いっつもこんなだけどね。しつこいんだよ、あいつら」
そう言うと、ユウは広場の端の植え込みまで歩いて行って暗がりにおーいと声をかけ始めた。
まったく真剣味が感じられない。まるで平常時のようだ。
あたしは落ち着いてなどいられない。
いつ蛭人間が押し寄せてくるかと気が気ではない。
キーキーと森の奥から響いてくる何かの鳴き声や、下草のカサカサいう音にいちいち反応してしまう。
風が吹いて木々の梢がわさわさと大きく揺れだした。
広場の真ん中で落ち葉が舞っている。
何かの気配が近づいてくるのを感じる。
「そろそろ来たかな」
ユウがまた広場の中央に戻って来ると、あたしに向かって、
「離れんなよ」
と言った。無論そのつもりだ。
「ごきげんよう」
背後から聞いたことのある変な挨拶。
あたしは思わず身構えた。
今回はユウを抱えなくていい分、前よりは素早く動ける。
でも、駐車場はその声が聞こえた方向、真後ろだった。
どうする?
「あんたも罠にはまりに来たの?」
ユウがゆっくりと振り向いて声の主に話しかけた。
あたしも振り向くと、この間と同じ黒い制服を着た女がこちらに歩いて来るのが目に入った。
「そういうことになりますわ。ほんと、しつこいわ、あの人たち」
と答えるやいなや、その女は地面を蹴って上方に大ジャンプすると、一瞬で梢を超え闇の空間に消えた。
次いで夜空の真ん中に星が瞬いて金属が衝突した音が降って来た。
同時に近くの地面で重い音がした後その女がもとの位置に着地した。
枯葉が舞い、それが地面に落ちつくと、足元に人型のものが横たわっていた。
蝙蝠のような巨大な翼があるのを除けば、普通のリクルートスーツを着た若い男だった。
そのワイシャツの胸が赤黒く染まっている。
そのうち、その若い男は青い炎につつまれたかと思うと、やがて青墓の土に吸い込まれ消え失せてしまった。
「空を飛ぶなんてチートだわ、まったく」
女はそう言うと、再び地面を蹴って空高く飛び上がっていった。
あんたも言えないくらい飛んでるけどね。
そう思いながら上空を見つめていると、ユウが、
「行くよ」
と言って駆け出した。
駐車場に戻るつもりなんてないらしい。
青墓のさらに奥に向かって走って行く。
ユウの足は速い。付いて行くのは骨が折れる。
森の道を行くとユウが蹴たてた枯葉が舞い上がる。
後ろのあたしからは枯葉のスクリーンの向こうをユウが走り去ってゆくかのように見える。
ユウが右手を挙げて上空を指さした。
走りながら目線を上げると、前方の夜空に黒い影が一つ浮かんでいるのが見えた。
蝙蝠のような羽を広げているが鳥ではなさそうだ。2本の長い足がついている。
あの女が落とした男の仲間なんだろうか。
ユウはあれを追っているらしが、空を飛べないユウはどうやってあれを落とすつもりだろう……。
駐車場に車を停めて、イベント時の集合場所になっている古い倉庫のある広場まで来てみたけれど、まだ誰もいなかった。
スレイヤーR・アプリのマップを見ると、相変わらず周囲は夥しいマーカで埋め尽くされている。
けれどもあたりには蛭人間の気配すら感じられなかった。
アプリの誤作動かもしれないと思って、ニュースタブを開いても、特に新しい情報はアップされてなかった。
興味なさげに立っているユウに聞いてみる。
「どう思う?」
するとユウがポケットからスマホを出してこちらに見せた。
その画面のマップにはマーカーが一つも表示されていなかった。
その画面でニュースタブにスワイプすると「システム障害のお知らせ」とあってマーカーの誤表示のことが書かれてあった。
「宮木野神社にいた奴のをくすねて来た。こっちがボクの」
と差し出された違うスマホの画面はあたしのものと同じように夥しい数のマーカで埋め尽くされていた。
これはどういうこと?
「罠だよ」
しれっとして言う。
「罠と知っててここまで来たの?」
「まあね。てか、いっつもこんなだけどね。しつこいんだよ、あいつら」
そう言うと、ユウは広場の端の植え込みまで歩いて行って暗がりにおーいと声をかけ始めた。
まったく真剣味が感じられない。まるで平常時のようだ。
あたしは落ち着いてなどいられない。
いつ蛭人間が押し寄せてくるかと気が気ではない。
キーキーと森の奥から響いてくる何かの鳴き声や、下草のカサカサいう音にいちいち反応してしまう。
風が吹いて木々の梢がわさわさと大きく揺れだした。
広場の真ん中で落ち葉が舞っている。
何かの気配が近づいてくるのを感じる。
「そろそろ来たかな」
ユウがまた広場の中央に戻って来ると、あたしに向かって、
「離れんなよ」
と言った。無論そのつもりだ。
「ごきげんよう」
背後から聞いたことのある変な挨拶。
あたしは思わず身構えた。
今回はユウを抱えなくていい分、前よりは素早く動ける。
でも、駐車場はその声が聞こえた方向、真後ろだった。
どうする?
「あんたも罠にはまりに来たの?」
ユウがゆっくりと振り向いて声の主に話しかけた。
あたしも振り向くと、この間と同じ黒い制服を着た女がこちらに歩いて来るのが目に入った。
「そういうことになりますわ。ほんと、しつこいわ、あの人たち」
と答えるやいなや、その女は地面を蹴って上方に大ジャンプすると、一瞬で梢を超え闇の空間に消えた。
次いで夜空の真ん中に星が瞬いて金属が衝突した音が降って来た。
同時に近くの地面で重い音がした後その女がもとの位置に着地した。
枯葉が舞い、それが地面に落ちつくと、足元に人型のものが横たわっていた。
蝙蝠のような巨大な翼があるのを除けば、普通のリクルートスーツを着た若い男だった。
そのワイシャツの胸が赤黒く染まっている。
そのうち、その若い男は青い炎につつまれたかと思うと、やがて青墓の土に吸い込まれ消え失せてしまった。
「空を飛ぶなんてチートだわ、まったく」
女はそう言うと、再び地面を蹴って空高く飛び上がっていった。
あんたも言えないくらい飛んでるけどね。
そう思いながら上空を見つめていると、ユウが、
「行くよ」
と言って駆け出した。
駐車場に戻るつもりなんてないらしい。
青墓のさらに奥に向かって走って行く。
ユウの足は速い。付いて行くのは骨が折れる。
森の道を行くとユウが蹴たてた枯葉が舞い上がる。
後ろのあたしからは枯葉のスクリーンの向こうをユウが走り去ってゆくかのように見える。
ユウが右手を挙げて上空を指さした。
走りながら目線を上げると、前方の夜空に黒い影が一つ浮かんでいるのが見えた。
蝙蝠のような羽を広げているが鳥ではなさそうだ。2本の長い足がついている。
あの女が落とした男の仲間なんだろうか。
ユウはあれを追っているらしが、空を飛べないユウはどうやってあれを落とすつもりだろう……。