「辻沢日記 25」

文字数 1,051文字

「ごきげんよう。コミヤミユウ様」

 その変な挨拶だと拍子抜けしそうになるけど、まだ後ろの白ロリータが気になってしようがない。

「ごめんなさいね。あの子、暗がりで人を見ると見境がなくなるのです」

 夜野まひるがあたしの背後に目をやった。

あたしも振り返って見ると、出入り口を背にして白ロリータが初めの様子で立っている。

先ほどの獰猛さなど嘘のようだ。

そういえば夜野まひるはこの白ロリータをコトハと呼んだようだけど、

「そうです。あれは笹井ことは。あたくしの大事な妹です」

 RIBの笹井ことはといえば結成当初からの夜野まひるの妹分で超絶かわいい死の微笑み天使。

それがあんな姿になるなんて。

「あたくしのせいなのです」

と言うと、夜野まひるはあたしの向かいのソファーに座った。

いつの間にか家具の白いシーツがなくなり、昨晩の華麗な設えに変わっていて、テーブルの上には銀座吉岡屋のマカロンと薫草堂のヨモギ紅茶が用意されてあった。

そして牛乳瓶が一本。

 まずは、

「突然おじゃましてすみませんでした」

とお詫びすると、

「いいえ。いらっしゃると思ってましたから。あの生き物が何か知りたいのでしょう?」

という答えが返ってきた。

見透かされているようですこし怖かったけど、先ほどからのやり取りで夜野まひると話すことがどういうことか、だいたい分かった。

彼女は心が読める。

「ミユウ様が襲われたのも、あたくしのせいなのです」

と言うと夜野まひるはヨモギ紅茶でなく牛乳瓶を手に取ると、器用に蓋を開け喉を鳴らしながら一気に飲み干した。

そして、その真っ白い手の甲で牛乳ひげを拭うと、あの事故のことを話し始めた。



 夜野まひるがあくびをしながら、

「そうして、今ここにいます」

と全てを話し終わったのは明け方のことだった。

なるほど、あの生き物が夜野まひるを付け狙っている理由も分かった。

そして、かなりやばい奴らだということも。

でも、あたしが狙われた訳は今一つはっきりしなかった。

ユウと夜野まひるとはそれぞれの理由でお互いの敵を引き受けつつ共闘しているけれど、つまりはそれにあたしも巻き込まれたというのが正解みたいだった。

 帰り際、クリーニングをしていないことを詫びつつ制服を返そうとすると、夜野まひるは、

「いいえ、あたくしはもう着ませんから、ミユウ様に差し上げますわ」

と言った。

すごく嬉しかったけど、いろいろとやばそうなので、ちょっと預かるということで持ち帰ると言うと、

「ええ、どうぞ。ずっと預かっていただいて結構ですよ」

と言って微笑んだ。

夜野まひる、めっちゃ天使。
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