「辻沢ノーツ 18」 

文字数 2,435文字

ご挨拶終わった。近くの停留場でバスを待ってる。初めて乗る辻沢のバス。

「辻沢駅まで」

(ゴリゴリーン)

ゴリゴリカード使ってみた。

目の前の席、ヴァンパイアメークしたJK座ってる。

この子たち、ゴリゴリカードと一緒の制服着てる。

成美女子工業高なんだ。

お姉さん的には、胸元強調しすぎだと思うよ。

「この間、人が火事んなったのあったしょ」

「それ、ショーシンジサツな」

Sさんの離れのこと? やっぱ自殺だったの?

「それがさ、あれ自殺じゃなくて殺されたんだって」

「んなわけねーしょ。交番の前だし、めっちゃヤジューマだったってぞ」

違うんだ。交番ってどこのだろ。

「だしょ。それがさ、誰かに刺されたら燃え出したって」

「はあ? それはツリだわ」

「いや、マジでマジで」

「ツリツリ。そんなでっけー釣り針、ウチ引っかかんねーから」

「ツリじゃねーて」

「てか、ミノリ。歯に青のりついてっから」

「うっそ、マジで? カエラ、鏡貸して」

「はいよー、鏡。それ、うちのいとこが見てたって」

「ありがと、あ? カエラなんて。アイリどこよ、どこついてんの?」

「うっそー。だまされてんのー」

「こんの。テメ、コロス」

「テメーが、クソねたブッ込むからだろ!」

 待ち合わせのスーパーヤオマンに最後に着いたのはあたしだった。

みんなに聞いたら、それぞれ納得のステー先だったみたい。

距離も近くて、SNSで連絡とり合えば問題なさそうだった。

鞠野先生に四宮さんのこと聞こうと思ったけど、やめにした。

鞠野先生はバモスくんで待っててもらって、あたしたちはスーパーヤオマンでお買い物。

ガレージタイプのお店の中は、衣類が雑然と配置されていて、紳士服や婦人服といった区別さえ分からない感じ。

そんなでも、コスプレコーナーは入口入って右の目立つところにあったからすぐ分かった。

どれにしようかって3人で見てたら店員さんが寄ってきた。

「ペアのヴァンパイアものはほとんど売れちゃったですけど」

お祭で女子がペアでお揃いコーデするのは、宮木野さんと志野婦さんとが双子のヴァンパイアってのにちなんでのことらしい。

こっちは3人なんだけどな。

「3人お揃いってのなら、人気のモチーフものがありますよ」

と言って出して来てくれたのは、血糊がペイントしてある白いセーラー服。

リボンが色違い。

どこか見覚えのある制服な気が。

ミヤミユが、

「これって辻女の制服ですよね」

「そうです。だって、辻女女バス連続失踪事件がモチーフですから」

辻女女バス連続失踪事件。辻女のバスケ部員が続けて3人失踪したという。

3年前の事件らしい。

「じゃあ、もう見つかったんだ、その・・・・・、遺体で」

「いいえ、見つかってませんよ」

「なら、なんでこんなホラーな感じになるの? 変じゃない?」

「お客さん。ここは辻沢ですよ。失踪はヴァンパイアの仕業。見つかったらゾンビですよ」

「「なにそれ」」

(「ここのバスケ部、いろいろあって部員が集まらなくなってね。今、3人しかいないんだ」)

そういうことだったの?

さすがにみんなこれには引いて、

「他のにしよ」

ってなった。

「セーラー服が嫌なら、こっちはどうですか? セットのはこれが最後ですよ」

店員さんが持ってたのは、バスケの白ユニとバスパン。

やっぱり血糊ペイント付き。

「ちょっと待って、胸にTUJIJOってあるんだけど」

「そうですよ。モチーフ一緒ですもん。ゼッケン見てください。4番、7番、9番ですから」

なぜか店員さん、ドヤ顔。

「これって・・・・」

バスケした時、辻女の子たちが付けてた番号だったような。

「そうです。失踪した時、彼女たちが付けてたゼッケンです」

ウソ、まじで? どういうこと?

「背中にネームもつけようとしたんですけどね、プロ選手みたいに。でも彼女たち未成年でしょ。名前まではーっていう意見がありまして、やめました。やむなく」

あたしはミヤミユと顔を見合せた。

「それでも辻沢じゃ売れまくったから、いっかーって」

売れたの? これが? やばいよ、この町。

 結局、コウモリの羽根付きタキシードがあったからみんなでそれにした。

中の付け襟が選べるタイプで、あたしはレースのにする。

血糊メイクセット(牙付き、税込1498円)も薦められたけど、リップでなんとかなりそうだから買わなかった。

奥の試着室で着替えさせてもらう。

ちょっときつかったけどなんとか着れた。

試着室を出たらミヤミユが待ってて、二人で姿見のあるところまで行ってポーズ決めてみたら、いけてる感じだった。

胸元を強調しすぎな感じは置いておくことにしよう。

お会計済ませようと思たら、サキが来ない。

「サキまだー?」

とサキの試着室に呼びに戻ると靴がなかった。

「トイレかな」

「あたし見てくるね」

売り場に戻ると右手奥の非常口のアルミ扉に男子/女子トイレマークが見えた。

洋服のラックや靴下のワゴンを漕ぎ分けて行こうとするけど着替えを入れた買い物袋が邪魔をする。

非常口はすぐそこに見えるのになかなか近づけない。

悪戦苦闘の末、ようやく緑の誘導灯の下に辿りついて扉を開けると、そこは外壁に沿った狭い通路になっていた。

右がトイレみたいだけど灯りが点いてない。

左は暗い通路がずっと続いていて、奥にある扉から灯りが漏れている。

そっちに歩き出そうとしたら、扉が開いてタキシード姿のサキが通路に出て来た。

手を振ったけどガン無視でゆっくりとこっちに歩いてくる。

手には1mほどの細長い紙包みが握られていた。

「何買ったの?」

と聞くと、

「ノタ、そこ邪魔」

と言ってあたしを押しのけて行ってしまった。

 外に出てバモスくんのところに戻ると、

「あれ? 着替えて来たの?」

と鞠野先生。

ホテルに着替えに戻るついでにバモスくんも置いて来れると思っていたらしい。

言われて見ればこの車は車体スッカスカでセキュリティー観念のかけらもない。

鞠野先生には着替えや荷物をホテルのフロントに預けてもらうことになった。

どこかで合流しましょうということで、あたしたちと先生はスーパーヤオマンで分かれた。
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