「辻沢ノーツ 20」

文字数 1,154文字

 夏の間バイトを休むからって、その埋め合わせで人の仕事を肩代わりさせられたりして、大忙しだったこの半月間。

あの店長、人のこと何だと思ってんのか。

ホント、ムカつく。

だからっていうのはしゃくなんだけど提出日ギリギリにレポート出したのはあたしだけだった。

ゼミ室に提出に来たら、鞠野先生、講義あるからって受け取るだけ受け取って出て行っちゃった。

で、そのまま居残ってたらミヤミユが来て、2人でそのままおしゃべりしてると、後から来た院生の畑中先輩にこれあげるからアメ玉でも買ってお帰りって追い出された。

駅前にあるムラクモスポーツの割引券。

バイトがあるからというミヤミユとは校門のところでバイバイしたから、あたしはぼっちになって仕方なくムラクモスポーツに行くことにする。

 キャンプ用品の階をうろつく。

店内にあふれかえるコッヘルとかランタン、テントやシュラフを見ているうちに、あたしには必要ないと思い当たる。

だって、Aさん宅にお世話になるから雨風にも食事にも困ることもないだろうから。

「クロエ」

振り向くとフジミユがトレーニング帰りって格好で立ってた。

そう言えば、ここの最上階にあるボルダリングスタジオによく来てるって言ってたな。

「何か買いに来たの?」

「ううん。先輩に薦められて見に来たんだけど、あたしには必要なかったなって」

「だよね。クロエのフィールドは街なかだもんね」

しばらくシュラフのコーナーを二人でぶらついた。

「このマイナス表示って、あんまあてになんないんだよね」

シュラフには必ず、マイナス何度まで対応って表示がある。

それで夏用、冬用、レジャー用、厳寒地用とか判断できるようになってるっぽい。

「結局値段なんだよね。安いのは家の中で布団替わりにしか使えないし、本当に冬に屋外でなんてのは、4、5万するの買わないとダメ」

「フジミユはこういうの持って行ったりするの?」

「フィールドに? そうね。大概は不要かな。でも、調査対象による」

野外でテント張ってシュラフで生活するって、どんな調査対象だろ。

野生動物とかかな? でもそれって、もはやエスノグラフィーでなくない?

「そのために鍛えてるの?」

フジユミの引き締まった二の腕を指で突いてやった。

「まあ、そうとも言えるかな。まだまだ体力勝負なフィールドあるしね」

と力こぶを作って見せた。

 夕ご飯まだだって言うから一緒にドオって誘ったらOKしてくれた。

ギリギリで提出したリポート、実はフジミユに文献貸してもらったんだよね。

だから、お礼したかったんだ。

 いつも大混みだけどおいしいからリピートしちゃってる手羽先専門店に30分ならんでやっと入れた。

「とりあえずビールかな」

で始まって、手羽先を5皿食べて、中ジョッキ3杯、赤ワインのデキャンタを1つ、冷酒を升で3杯飲んだところで意識が飛んだ。
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