「書かれた辻沢 19」

文字数 1,577文字

 [ミユキ 電話していい?]

 とメールしようとそこまで書いて、なんか他人行儀すぎるなと直電いれた。

 電話の呼び鈴が鳴る。出た。

「」(無言)

「もし。ひさしぶり。調査順調?」

「いきなり?」

 素っ気ないけどアニメ声というギャップ。

「ごめん。ちょっと頼みたいことがあって」

「何?」

「会って話したい」

(こく)るなら間に合ってるけど」

「ちがうし」

「辻沢だけど」

「知ってる。近くにいる」

「いつ?」

「今日。これから」

「予定はないけども。どこで?」

 クロエは四ツ辻だから街中ならバッタリはない。

「駅前は?」

「いいよ」

「10時にヤオマン珈琲で」

「おけ」

 ショルダーバッグにパソコンと野帳とデジカメとコンベックスと……。また荷物がパンパンだ。

どうしてこうなる。

だいたい実測しない人がコンベックス持ってどうする? ミユウの『日記』に影響されすぎだ。

 口止めするの忘れてたけど、クロエと今バチバチ状態だからいいか。

「辻沢駅まで」

 (ゴリゴリーン)

 この路線はクロエが調査の行き来に使うから鉢合わせに注意しないといけない。

だけど、バスに乗っててもクロエの記憶の糸を見つけられれば現状把握可能だから助かる。

で、ちょっとお疲れ気味のクロエの記憶の糸を見つけたので読んでみる。

 なんと紫子さんにインタビューしてきたらしい。

いたって普通の内容であまり満足していない様子。

紫子さんもまだ自覚さえしてないクロエに鬼子使いの話をするはずもないから、当たり障りのないことを語ったのだと思う。

 さらに紐解くと、クロエの思いに遊女があった。

今回のクロエの調査目的は遊女の家系図作成だ。

四ツ辻で遊女ね。ないな。

だったら遊里で栄えた街中の方が該当者いると思う。

本当に何でわざわざ四ツ辻に行ったんだ? 

クロエが四ツ辻を選んだ理由がわからない。

本当は鬼子が調査対象だったとすると、いろいろ考えなきゃならないことが出てくる。

「次は終点辻沢駅です。ご乗車ありがとうございました。ゴマスリで町おこし。辻沢にまたおこし」

 (ゴリゴリーン)

 駅前ロータリーにあるコーヒーショップ、ヤオマン珈琲。

正面がガラス張りでそこに映っている自分の姿。

大きなショルダーバッグ下げてて、背中曲がってるよ。

店の中、ポツポツお客さんが座っているのが見える。

その一番入り口から遠い端っこの席でスマフォ覗き込んでるのが電話の相手。

「いらっしゃいませ」

 辻沢にはいないタイプのイケメンバリスタさん。眉毛ふっと。睫毛なっが。

「アイスカプチーノ下さい。シナモンで!」

 強めに言わないとデフォでサンショウぶっかけてくる。

 出来るまでメニューを眺めて待つ。

オレンジジュースに「サンショウなしが選べます」ってある。

サンショウ入りオレンジジュース、おいしいのか。

「お待たせしました」

 ロングのグラスを左手に持って奥の席へ。

向こうはずっとスマフォでこっちに気付かず。

「サキ」

 顔を向ける間際まで目はスマフォ。

「フジノジョシー」

 最初にピース合わせてからの、ロータッチ次にハイタッチ、往復グータッチでデコピンしてからの腕組み。

「「元気だった?」」

 なんでこんなややこしいことしてるかというと、寮のバスケ試合。

寮にバスケ出来る人が多いから、月一、中庭でバスケしてた。あたしとサキはずっと同じチームでそこで決めたハンドサインだ。

あたしはバスケ経験はなかったけれど、ミユウがうまかったからあたしもできるだろうっていう双子あるあるで参加させられていた。

実際足を引っ張らないくらいは出来るようになった。

「どうしたの? その包帯」

 サキは頭に二巻きほどの包帯を巻いていた。

「これ? フィールドでこけて」

 本当にこけただけ? サキのフィールドって……。

「辻沢のどこだっけ?」

「青墓の杜だけど」

 やっぱりそうだ。

サキのオーディエンスエスノの実態は、『スレイヤー・R』に参戦すること。

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