「辻沢ノーツ 44」

文字数 1,175文字

 駅前はサバゲースタイルの人がちらほらいた。

でも、昨日ほどの賑わいはなかった。

寸劇さんやサダムさん、サーリフくんをその中に探した。

戦いの中、短い間だったけど寸劇さんたちとはいい関係が築けた気がしていたから、連絡が取れないだけならもう一度会いたいと思った。

どうしても考えてしまうのは、やっぱりユウのこと。

裏での行動はいい感じはしないけど、ユウを突き放せないでいるのは、あたしにそっくりということ以上に、ユウに寄せてる信頼が大きいと思う。

ユウは他の人とは全然違うという感覚。

ともかく、ミヤミユの件については、これからミヤミユに会えば何か分かるだろう。

「バイパス大曲交差点まで」

(ゴリゴリーン)

 バイパス線に乗る。

この路線は駅前から宮木野神社の脇を通り宮木野バイパスに入る。

宮木野神社を過ぎてバイパスに入ると一気に南下して、雄蛇ヶ池手前で東に大きく曲がって、N市の方向へ抜ける。

 駅から乗っていた清楚系の制服着たJKが、目の前の座席で面白そうな話をしてる。

鞠野先生に人の話に無駄な話なんて一つもないよって教わってるから、こういう時でも聞き耳を立てちゃう。

失礼なのは分かっているけど。

「マナミんとこって双子だったよね」

「うん」

「辻沢じゃさ、女子の双子は5才の時に前歯を折るって風習あるってじゃない?」

「あるね」

「マナミはしなかった?」

「いきなりだね。なんでそんなこと知りたい?」

「現社のレポートの『私のふるさと調査』」

「あーあれねー、で何調べてんの?」

「辻沢のヴァンパイア伝承について」

「おー、核心つくね。じゃあ、教えてあげる。したよ。よく覚えてないけど。因みに前歯じゃなくて犬歯ね」

「でもマナミ犬歯あるよね」

「折るのは乳歯だから」

「いたかった?」

「先っぽだけだから」

「そっか。で、理由知ってる?」

「ヴァンパイアにならないように」

「やっぱそうなん? でも、なんで双子の女子だけなんだろ。男だって、双子じゃなくたってよくない?」

「それな」

「おもうっしょ、フツー」

「うんとね、おばーちゃんが言ってたんだけど、宮木野と志野婦がヴァンパイアだったからって」

「どういうこと?」

「宮木野の子孫に、女の双子が生まれるとどっちかがヴァンパイアってのが続いたんだって」

「なるほど、そういうこと」

「伝承ではね」

「相当いるよね。あたしらの周り。双子。カリナとカイラとか」

「いるいる。ミキとミユもそうだし、アリサちゃんとアカリちゃんも」

「みんな折ったのかな」

「折ってると思うよ。辻沢の双子は」

「折らなくてヴァンパイアになった子っているのかな?」

「いるよ。あたし知ってる」

「うっそ! マジで?」

「ウソに決まってっしょ。迷信信じんなよ」

「もー、マナミ!」

話聞いてたら、歯が痛くなってきた。

「何か臭くない?」

「あ、さっきからあたしも」

それって、あたし? 

気付かれないうちに席移動しよっと。
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