「書かれた辻沢 123」
文字数 1,862文字
「今のところ、まひるの回復を待つしかないか」
ユウさんがまひるさんの左腕を見ながら言った。
「3日で元にもどるんだよね」
クロエがまっすぐな目でまひるさんを見つめる。戻らないことなどまったく考えてない顔だ。
「そのはずなんですが、ここの時間の進み方が他と違う気もしていて」
とまひるさんが自分の腕の付け根を右手で撫ぜて言った。
「あ、それ分かる。怪我の治りが遅い」
アレクセイが袖が裂けた自分の二の腕をつき出してみんなに見せた。
「いつもなら、もうきれいになっていいころ」
怪我をしていないあたし以外のクロエとユウさんが自分の傷を確認して、
「「ほんとだ」」
つまり五芒星をちゃんと作れるとしたら3日後では済まないということらしい。
ユウさんがまひるさんに近づいて肩に触れた。
「時間はある。岸辺に上がってゆっくり待とう」
まひるさんが頷いて方針が決まった。
岸辺から見るけちんぼ池は血膿をたたえながらも静かそのものだった。
「この血はどこから湧いてくるんでしょう」
あたしはこの大量の血の出所が知りたくなった。するとユウさんが、
「おそらく、ボクたちがこれまで流した血なんだと思う」
ユウさんは、自分たち鬼子が流した血や、ひだるさまや屍人、蛭人間たちが流した血が全部集まって出来たのだろうと言った。
ならば、あたしが殺した自信なさげなあたしもまた、血汚泥となって揺蕩っているはずだ。
すぐそこの湖面を見ると血面のほんの少し上空にミユウが浮かんで、その周りでクロエとアレクセイがじゃれ合っていた。二人結構仲がよさそう。
あたしはその平和そのものの風景を見て疑念がわいた。
「ここって血の池地獄ですよね」
確かに血だらけで血なまぐさい匂いはしているが、グツグツと沸騰していないし、中で罪人が溺れ苦しんでもいないし、それを獄卒が攻め立ててもいなかった。
「まあ、血の池地獄なんて結局ホラ話なんだよ」
とユウさんがつまらなさそうに言った。
「第一、女人地獄のはずの所にアレクセイも入ってるしね。あいつ男子だろ」
ほんとうだ。今気づいたけれどアレクセイは男の子だ。少年だからいいのかも。
銭湯の女湯が小学生までは男子も入っていいように。
するとまひるさんがあたしの心を読み取って、
「あの子はロシア革命前の生まれですから、御年取って120歳です」
あ、おじいさんなのね。いくら最近のおじいさんは可愛いっていっても女湯には入れないな。
ということは、女人地獄というのも「ホラ話」だったということか。
「ジャンケンポン。勝った」
クロエがはしゃぐ声がする。
「ジャンケンポン! ウチの勝ちだ」
聞きなれたアニメ声がした。よく見るとクロエの隣にいるのはサキだった。
「何でサキが?」
「アレクセイですよ」
そうか、アレクセイはサキになり変わることができたのだ。
「でも、何で」
あたしはそれをやめさせるためにけちんぼ池に戻った。
あの変装がどれだけあたしたちを傷つけたか。
クロエとサキがじゃんけんに興じている側まで泳いで行って、
「あんた、サキの格好するのやめてくれる?」
とアレクセイに詰め寄ると、
「イズヴィニーチェ。知り合いの顔見せたら戻るかと思って」
と言ったのでそれ以上責める気になれなくなった。実のところ考え方は子供なのかもしれない。
「ジャンケンポン。勝った。フジミユもやってみ。ミヤミユ、チョキしか出さないから楽勝だよ」
そんなので何が楽しいか分からなかった。この子もアレクセイ並みに無邪気かと思うと脱力感で溺れそうになった。
「チョキしかって?」
あたしがミユウの手を見ると、握ってはチョキ、握ってはチョキを繰り返していた。何かのサインか?
「あーーーー!」
サキの顔したアレクセイが叫んだ。
「これって、あのサインじゃない? ほら、バスケの時の」
サキになりきってるからそんなことまで思い出してとあきれながら、はたと思い至る。
バスケの時のって、
「最初にピース合わせてからの、ロータッチ次にハイタッチ、往復グータッチでデコピンしてからの腕組み」
ってハンドサインのことか。
そういえば、最初のピースって5人で合わせると、
「「五芒星になる!」」
あたしは、岸辺にいるユウさんとまひるさんに糸口が見つかったと言った。
二人は泳いで近づいてきて、
「どうやる?」
と聞かれて説明すると、ユウさんは、
「女子高生みたいだな」
と言って笑った。
「浄化なんて言っても案外その程度か」
「所詮はホラ話ですから」
とまひるさんが笑顔で言ったのだった。
ユウさんがまひるさんの左腕を見ながら言った。
「3日で元にもどるんだよね」
クロエがまっすぐな目でまひるさんを見つめる。戻らないことなどまったく考えてない顔だ。
「そのはずなんですが、ここの時間の進み方が他と違う気もしていて」
とまひるさんが自分の腕の付け根を右手で撫ぜて言った。
「あ、それ分かる。怪我の治りが遅い」
アレクセイが袖が裂けた自分の二の腕をつき出してみんなに見せた。
「いつもなら、もうきれいになっていいころ」
怪我をしていないあたし以外のクロエとユウさんが自分の傷を確認して、
「「ほんとだ」」
つまり五芒星をちゃんと作れるとしたら3日後では済まないということらしい。
ユウさんがまひるさんに近づいて肩に触れた。
「時間はある。岸辺に上がってゆっくり待とう」
まひるさんが頷いて方針が決まった。
岸辺から見るけちんぼ池は血膿をたたえながらも静かそのものだった。
「この血はどこから湧いてくるんでしょう」
あたしはこの大量の血の出所が知りたくなった。するとユウさんが、
「おそらく、ボクたちがこれまで流した血なんだと思う」
ユウさんは、自分たち鬼子が流した血や、ひだるさまや屍人、蛭人間たちが流した血が全部集まって出来たのだろうと言った。
ならば、あたしが殺した自信なさげなあたしもまた、血汚泥となって揺蕩っているはずだ。
すぐそこの湖面を見ると血面のほんの少し上空にミユウが浮かんで、その周りでクロエとアレクセイがじゃれ合っていた。二人結構仲がよさそう。
あたしはその平和そのものの風景を見て疑念がわいた。
「ここって血の池地獄ですよね」
確かに血だらけで血なまぐさい匂いはしているが、グツグツと沸騰していないし、中で罪人が溺れ苦しんでもいないし、それを獄卒が攻め立ててもいなかった。
「まあ、血の池地獄なんて結局ホラ話なんだよ」
とユウさんがつまらなさそうに言った。
「第一、女人地獄のはずの所にアレクセイも入ってるしね。あいつ男子だろ」
ほんとうだ。今気づいたけれどアレクセイは男の子だ。少年だからいいのかも。
銭湯の女湯が小学生までは男子も入っていいように。
するとまひるさんがあたしの心を読み取って、
「あの子はロシア革命前の生まれですから、御年取って120歳です」
あ、おじいさんなのね。いくら最近のおじいさんは可愛いっていっても女湯には入れないな。
ということは、女人地獄というのも「ホラ話」だったということか。
「ジャンケンポン。勝った」
クロエがはしゃぐ声がする。
「ジャンケンポン! ウチの勝ちだ」
聞きなれたアニメ声がした。よく見るとクロエの隣にいるのはサキだった。
「何でサキが?」
「アレクセイですよ」
そうか、アレクセイはサキになり変わることができたのだ。
「でも、何で」
あたしはそれをやめさせるためにけちんぼ池に戻った。
あの変装がどれだけあたしたちを傷つけたか。
クロエとサキがじゃんけんに興じている側まで泳いで行って、
「あんた、サキの格好するのやめてくれる?」
とアレクセイに詰め寄ると、
「イズヴィニーチェ。知り合いの顔見せたら戻るかと思って」
と言ったのでそれ以上責める気になれなくなった。実のところ考え方は子供なのかもしれない。
「ジャンケンポン。勝った。フジミユもやってみ。ミヤミユ、チョキしか出さないから楽勝だよ」
そんなので何が楽しいか分からなかった。この子もアレクセイ並みに無邪気かと思うと脱力感で溺れそうになった。
「チョキしかって?」
あたしがミユウの手を見ると、握ってはチョキ、握ってはチョキを繰り返していた。何かのサインか?
「あーーーー!」
サキの顔したアレクセイが叫んだ。
「これって、あのサインじゃない? ほら、バスケの時の」
サキになりきってるからそんなことまで思い出してとあきれながら、はたと思い至る。
バスケの時のって、
「最初にピース合わせてからの、ロータッチ次にハイタッチ、往復グータッチでデコピンしてからの腕組み」
ってハンドサインのことか。
そういえば、最初のピースって5人で合わせると、
「「五芒星になる!」」
あたしは、岸辺にいるユウさんとまひるさんに糸口が見つかったと言った。
二人は泳いで近づいてきて、
「どうやる?」
と聞かれて説明すると、ユウさんは、
「女子高生みたいだな」
と言って笑った。
「浄化なんて言っても案外その程度か」
「所詮はホラ話ですから」
とまひるさんが笑顔で言ったのだった。