「辻沢ノーツ 63」
文字数 1,166文字
サキは森を出てからもずっと無言で、あたしたちはひたすらバス通りを駅に向かって歩いた。
途中、コンビニにサキが寄ったのであたしは外で待った。待っている間、裏の駐車場を見たら、ボサボサ頭の女子が街灯の下でフットワークか何かの練習をしていた。
ボールは持ってなかったけど、辻女のユニホーム着てたからバスケの練習だと思う。
こんな夜中に?
サキがようやくコンビニから出て来た。
相変わらず無言であたしのことは無視したままバス通りを歩いて行く。
周りは田んぼだけど、通り過ぎる車がたてるタイヤの音以外は、微かに虫の声がしているだけだった。
この時期、カエルの大合唱のない田んぼって変なの。
「カエル鳴いてない」
「蛭人間が全部喰っちゃうからね」
反応あった。
「着ぐるみが?」
「あれは、Y・S・Sの宣伝用。辻沢中を血を求めて彷徨ってるのがほんもの」
「カエルの?」
「カエルも」
「え?」
「え?」
また、無言にもどってしまった。
蛭人間がカエルを食べるって。ずいぶんと生臭い話だと思った。
三叉路に来た。ここを右にまっすぐ行けば駅だ。
遠くに街の灯りが見えている。
「じゃあ」
とサキが手を挙げて駅とは違う道に歩き出した。
「どこ行くの?」
「ついてくんなよ」
そう言うわけにはいかない。
一人だと何に遭うか知れない。
田んぼの中の一本道をしばらく行くと集落に入った。
暗くて街並みはよく分からなかったけど、ある家の門を見た時ようやく気が付いた。
そこはSさんのお宅だった。
最初の宿泊予定地だ。
サキはSさん宅の脇の道に入ると、裏の林に向かって歩いて行く。
どうやら、あの離れに行くつもりのようだ。
久しぶりに目にした離れは竹藪の中で黒い影になって静かに建っていた。
サキは離れの玄関の前に来るとポケットから鍵を出してドアを開けた。
「入りなよ」
あの時、サキがここがいいってしばらく粘ったのを思い出した。
ひょっとしてミヤミユも一緒? と思ったけれど、中は真っ暗で誰も居ないようだった。
玄関に立つと生活の匂いの他に初めの時に感じた饐えた匂いも残っている気がした。
サキが靴を脱いで上がって「どうぞ」と言ったので、あたしも靴を脱いで上がる。
左手の部屋の電気が付くと、ちゃぶ台の周りの床いっぱいにサバイバルグッズや武器類が置いてあるのが見えた。
サキはそのまま右手の部屋に移動すると、畳の上に足を投げ出して座った。
その部屋はきれいに片づけてあって何も置いてなかった。
「叔母さんが住んでた。半年前まで」
住んでいたのはサキのお母さんの双子の妹だったそう。
「浮浪者じゃないし、行旅死亡人でもなかった」
サキは畳を指でこすると、指先に付いたほこりを口で吹いて飛ばした。
「ウチが小さいころは可愛がってくれて、ウチも大好きだった。でも最近のことは知らない」
何年も前に疎遠になったという。
「引き籠りだったらしい、大人なのに」
途中、コンビニにサキが寄ったのであたしは外で待った。待っている間、裏の駐車場を見たら、ボサボサ頭の女子が街灯の下でフットワークか何かの練習をしていた。
ボールは持ってなかったけど、辻女のユニホーム着てたからバスケの練習だと思う。
こんな夜中に?
サキがようやくコンビニから出て来た。
相変わらず無言であたしのことは無視したままバス通りを歩いて行く。
周りは田んぼだけど、通り過ぎる車がたてるタイヤの音以外は、微かに虫の声がしているだけだった。
この時期、カエルの大合唱のない田んぼって変なの。
「カエル鳴いてない」
「蛭人間が全部喰っちゃうからね」
反応あった。
「着ぐるみが?」
「あれは、Y・S・Sの宣伝用。辻沢中を血を求めて彷徨ってるのがほんもの」
「カエルの?」
「カエルも」
「え?」
「え?」
また、無言にもどってしまった。
蛭人間がカエルを食べるって。ずいぶんと生臭い話だと思った。
三叉路に来た。ここを右にまっすぐ行けば駅だ。
遠くに街の灯りが見えている。
「じゃあ」
とサキが手を挙げて駅とは違う道に歩き出した。
「どこ行くの?」
「ついてくんなよ」
そう言うわけにはいかない。
一人だと何に遭うか知れない。
田んぼの中の一本道をしばらく行くと集落に入った。
暗くて街並みはよく分からなかったけど、ある家の門を見た時ようやく気が付いた。
そこはSさんのお宅だった。
最初の宿泊予定地だ。
サキはSさん宅の脇の道に入ると、裏の林に向かって歩いて行く。
どうやら、あの離れに行くつもりのようだ。
久しぶりに目にした離れは竹藪の中で黒い影になって静かに建っていた。
サキは離れの玄関の前に来るとポケットから鍵を出してドアを開けた。
「入りなよ」
あの時、サキがここがいいってしばらく粘ったのを思い出した。
ひょっとしてミヤミユも一緒? と思ったけれど、中は真っ暗で誰も居ないようだった。
玄関に立つと生活の匂いの他に初めの時に感じた饐えた匂いも残っている気がした。
サキが靴を脱いで上がって「どうぞ」と言ったので、あたしも靴を脱いで上がる。
左手の部屋の電気が付くと、ちゃぶ台の周りの床いっぱいにサバイバルグッズや武器類が置いてあるのが見えた。
サキはそのまま右手の部屋に移動すると、畳の上に足を投げ出して座った。
その部屋はきれいに片づけてあって何も置いてなかった。
「叔母さんが住んでた。半年前まで」
住んでいたのはサキのお母さんの双子の妹だったそう。
「浮浪者じゃないし、行旅死亡人でもなかった」
サキは畳を指でこすると、指先に付いたほこりを口で吹いて飛ばした。
「ウチが小さいころは可愛がってくれて、ウチも大好きだった。でも最近のことは知らない」
何年も前に疎遠になったという。
「引き籠りだったらしい、大人なのに」