「辻沢ノーツ 74」

文字数 1,344文字

 やっと『スレイヤー・R』の人たちから逃げられたと思ったら階段下りだした。

地下道に行く気?

画面、暗くてよく分からない。

確かに歩いてるんだけど、どこをどう歩いてるのか。

足音が反響してる。

やっぱり地下道かな。

でも、なんでこんなとこに入った? 

蛭人間とかゾンビとか徘徊してるって噂なのに。

走り出した。走ってる。まだ走ってる。ずっと走ってる。ひたすら走ってる。

水の音がしてる。ばしゃばしゃって。

水が溜まってるところなんだ。

今度はごぼごぼ言ってる。泳いでんの? 

服がびちょびちょだったのって、こういうこと? 

また、歩きだした。

 明りだ。

ぼやっと明りが見えてる。

どこかわからない地下道の中。

止まった。立ち止まってる。

なかなか進めない感じ。

行っては戻り、後ろ向いたり、横向いたり、転んだり、大忙しな感じ。

咆哮が聞こえる。

喉の奥から出て来るような声。すごい。

バチって火花散ってる。破裂音もする。カメラの揺れが激しい。

もしかしたら見えない何かと戦ってる?

あたしの動き止まった。息が荒い。

カメラは自分の足下を写してる。傾いちゃったんだ。

もう地面しか見えなくなった。

歩き出した。映像が揺れがひどくなって見てると酔っちゃいそう。

階段だ。

画面が明るくなった。

地下道から外に出たっぽい。

時々画面をかすめる影は自分のかな。

道をそれて草むらに入ったみたい。

また真っ暗になってどこをどう歩いているのか分からなくなった。

 ずいぶん長い間、草の擦れる音や枝葉を踏む音してた。

急に地面が明るくなった。

整地された場所に出たみたい。

砂利が敷かれた道。

木の階段昇って板張りのところで止まった。

じっとしてる。足元が照らされた。

<いらっしゃい>

人の声。誰だろ。

カメラの角度のせいで声しかわからない。

声もくぐもってて分かりずらいし。

<あれ? これカメラじゃん……>

ブツ!

切れた。



 朝ベッドで目覚めた時はアンダーだけ着けてた。

他の服はベッドの横に脱ぎ捨ててあって、上着の胸のところが引き裂かれた感じになってた。

赤黒い血みたいなのも着いてたけど、あたしは怪我はしていなかった。

因みにゴリプロは脱いだ服のポケットに入ってた。

 ノラネコみたく夜の街をうろうろして女の子にちょっかい出したり、人に追っかけまわされたり。

こんなことしてたんだ。

おばあちゃんを困らせてたのはこれなのかな?

フジミユはこんなのに毎回付き合ってくれたてたの?

それとも、これをしないように見守った?

分からない。

言えるのはあたしは何かをしようとしてた。

ただじっと部屋に閉じこもってたんじゃなかった。

無意識のあたしは何かを求めて彷徨ってた。

「答えは自分で見つけるしかない」

そのことをあたしはちゃんと知っていたのかもしれない。

 あたしが直近で意識をなくしたのは、辻沢に来て初めてのあの飲み会のあとだった。

あの時はあたしが猛烈にプッシュしてたけど、結局はミヤミユからの誘いで集まった。

あの日は、ミヤミユとひさごで別れた後、一人で居酒屋で正体がなくなるまで飲んで、いつの間にかAさん宅に戻っていた。

すごくおぼろげだけど、それとはまったく別の、ずっとフジミユが一緒にいてくれたという記憶がある。

今回もミヤミユは飲みに誘った。

断るとしつこいくらい理由を聞いて来た。

あのミヤミユは何かを知ってる。
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