「辻沢日記 4」

文字数 1,299文字

 サキも加わって結局クロエと3人で辻沢に入ることになった。

で、今日は鞠野フスキのホンダ・バモスTN360型で調査前挨拶に辻沢に来た。

 辻沢調査のキーマンである辻沢女子高等学校(略称:辻女)の教頭先生に挨拶しに行くと、出かけているということで、待っている間に何故かバスケをすることになった。

高校のころ何度か辻女の女バスとは練習試合をしたこともあって、この奇抜な格好をした顧問のことはよく覚えていた。

改めて挨拶することはしなかったけど、向こうも見覚えがあったのか、あたしの顔を見るなりバスケするよねと言って来た。

相手は辻女の女バスの子たちだった。

バスケは大好きだしいい気晴らしになると思ってやったけれど、相手は現役、かなうはずもなく、ただただ体力を消耗して終わった。

 結局、教頭先生は戻られることもなく代わりに対応していただいた教科主任の関口先生に汗だくのまま挨拶することになって、鞠野フスキにはあきれられてしまった。

 今回クロエが辻沢に入ることを快く思っていない連中がいることは知っていた。

ただでさえユウという厄介者が暴れまわっているのに、もう一人鬼子が増えるのを忌む気持ちも分からないでもない。

鞠野フスキはそれを承知でクロエを辻沢に連れて来た。

町長にまで挨拶させて公認を取ろうなんてよっぽどのことだ。

町長のお墨付きとなればそいつらも静観せざるを得ないというつもりなのだろう。

 次の日、夏の間3人で寝泊まりする場所を下調べに行く。

先に伝えられていたのは、離れの一軒家が空いたので引き受けましょうということだった。

ご挨拶の後にそこに案内してもらうと、その後ボヤがあって焼死人が出たとぼそっと言った。

どこからか迷い込んだ浮浪者だったという。

急な事実開陳の訳はドタキャン、見え透いた妨害行為だ。

今になって、女学生が不吉なことがあった場所で1カ月以上も過ごすなんてとか、もっとよい引き受け先があるだろうからとか、おためごかしが過ぎる。

よくよく見てみれば畳も古いまま、板間に焦げ跡が残っているわけでもない。

この家全体に染みついた饐えたような匂いから推して、焼け死んだというのは侵入者などではなく、この家に以前から巣くっていたヴァンパイアなんじゃないかと思った。

青い炎となって燃尽したのだ。痕跡などのこるはずもない。

つまりこれは横槍だ。あわよくばあたしたちを追い返そうという魂胆が見え透いている。

だったらそっちの思い通りになるもんかと散々食い下がってやった。

しっぽを出して黒幕をポロリすればいいし、そうならなくても気分は少し晴れる。

 最近、辻沢でヴァンパイア殺しが頻発していることは知っている。

つい先週も西廓界隈で3軒続けて影隠しがあったというし。

きっとそれら全てがユウの仕業になっているのだと思う。

でも、ユウはそんなことはしない。ユウが狩るのは屍人だけだ。

 結局、宿泊先は3人バラバラになった。

サキは駅前のビジネスホテル、ヤオマン・イン。

あたしはユウの狩場に近い大曲のヤオマンホテル・バイパス店。

クロエだけ一般家庭にステー。監視付きだ。

鞠野フスキが言うには、それが滞在許可を取り付けるギリギリの選択だったそう。
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