「辻沢ノーツ 33」
文字数 1,204文字
ここは小学校の3年2組の教室だ。
見覚えのある机と椅子。机の上の「きもえ」って落書きが消えなくて一生懸命消しゴムでゴシゴシしてた。
マミちゃんがあたしの肩に手を置いて、
「あそぼうよ」
って言った。
あたしはすぐさま、
「ヤダ」
って言ったんだけど、いつの間にかクラス中の女の子があたしの周りを囲っていて、一斉に手を伸ばしたかと思うと、全員であたしをくすぐり出した。
やめて、くすぐったい。
やめて! お願い。
やめてよ。
あたしは椅子から崩れ落ちて、床に這いつくばったけど、みんなであたしにのしかかってしつこくくすぐってくる。
みんなの顔は紅潮してて、目がつり上がってて、口からよだれを垂らしてて、とっても怖い。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
あたしが悪いの。
あたしがキモいから。
みんなにキモがられるから。
許して。
もうしません。
仲良くしたいって思いません。
お話ししたいって思いません。
だから許して。
みんなの甲高い声がコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョってずっとずっとずっとずっと続いてる。
気持ち悪くなって、胸がむかむかして、喉からあたしのじゃない恐ろしい声がして、目の前が真っ暗になって、気が遠くなって、静かになって、目が覚めた。
明るくなっていた。
ヤオマン・インのベッドの上に倒れこんだまま寝てしまってた。
スマホが鳴ってる。
リュックの底からスマホを引っ張り出す。
フジミユだ。
メッセージするって言ってたのにしてあげてなかった。
「おひさ。どうよ」
「連絡しなくてごめん」
「暗いな。問題出来?」
「絶賛出来中」
「どした?」
「追い出された」
「どこをよ」
「ステー先」
「ワラエル。で、ウツなんだ」
「誰でもウツになるでしょ」
「よくある話。あたしだってフィールド出禁っての2回あったよ」
「ウソでしょ?」
「マジで」
「フジミユでも?」
「あたしだってやる時はやる」
「意味ちがう」
「そっか」
「そだよ」
「で、どする?」
「わかんない」
「逃げ帰るか」
「帰っても誰もいない。フジミユに会いたい」
「甘えんな。あたしだって忙しい」
「だよね」
「で、遊女は見つかった?」
「そもそも見つけに来てないけど」
「家系調査だ」
「そう。でも遊女に会わせてくれるって人いる」
「なにそれ。大丈夫? ツリじゃない?」
「それは思った」
「やめとき、そういうの必ず裏あるから」
「でも、その女の人は信じて良さそうだった」
「女の人なんだ。なんでそう思う?」
あたしにそっくりだからって言ったら、絶対やめとけって言われるな、きっと。
「なんとなく」
「なんとなくね。そういうのが一番危ない」
「でももう約束したし」
「いつよ」
「今日」
「忙しいんじゃん」
「そう、忙しいのこれでも。だから電話かけてこないでくれる」
「言うね」
「冗談。お陰で元気出た」
「よかった。ガンバレ」
「いつもありがと」
「なんの」
「じゃあね」
こっちから電話を切った。
本当はずっと話していたかった。
でもしなかった。
見覚えのある机と椅子。机の上の「きもえ」って落書きが消えなくて一生懸命消しゴムでゴシゴシしてた。
マミちゃんがあたしの肩に手を置いて、
「あそぼうよ」
って言った。
あたしはすぐさま、
「ヤダ」
って言ったんだけど、いつの間にかクラス中の女の子があたしの周りを囲っていて、一斉に手を伸ばしたかと思うと、全員であたしをくすぐり出した。
やめて、くすぐったい。
やめて! お願い。
やめてよ。
あたしは椅子から崩れ落ちて、床に這いつくばったけど、みんなであたしにのしかかってしつこくくすぐってくる。
みんなの顔は紅潮してて、目がつり上がってて、口からよだれを垂らしてて、とっても怖い。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
あたしが悪いの。
あたしがキモいから。
みんなにキモがられるから。
許して。
もうしません。
仲良くしたいって思いません。
お話ししたいって思いません。
だから許して。
みんなの甲高い声がコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョってずっとずっとずっとずっと続いてる。
気持ち悪くなって、胸がむかむかして、喉からあたしのじゃない恐ろしい声がして、目の前が真っ暗になって、気が遠くなって、静かになって、目が覚めた。
明るくなっていた。
ヤオマン・インのベッドの上に倒れこんだまま寝てしまってた。
スマホが鳴ってる。
リュックの底からスマホを引っ張り出す。
フジミユだ。
メッセージするって言ってたのにしてあげてなかった。
「おひさ。どうよ」
「連絡しなくてごめん」
「暗いな。問題出来?」
「絶賛出来中」
「どした?」
「追い出された」
「どこをよ」
「ステー先」
「ワラエル。で、ウツなんだ」
「誰でもウツになるでしょ」
「よくある話。あたしだってフィールド出禁っての2回あったよ」
「ウソでしょ?」
「マジで」
「フジミユでも?」
「あたしだってやる時はやる」
「意味ちがう」
「そっか」
「そだよ」
「で、どする?」
「わかんない」
「逃げ帰るか」
「帰っても誰もいない。フジミユに会いたい」
「甘えんな。あたしだって忙しい」
「だよね」
「で、遊女は見つかった?」
「そもそも見つけに来てないけど」
「家系調査だ」
「そう。でも遊女に会わせてくれるって人いる」
「なにそれ。大丈夫? ツリじゃない?」
「それは思った」
「やめとき、そういうの必ず裏あるから」
「でも、その女の人は信じて良さそうだった」
「女の人なんだ。なんでそう思う?」
あたしにそっくりだからって言ったら、絶対やめとけって言われるな、きっと。
「なんとなく」
「なんとなくね。そういうのが一番危ない」
「でももう約束したし」
「いつよ」
「今日」
「忙しいんじゃん」
「そう、忙しいのこれでも。だから電話かけてこないでくれる」
「言うね」
「冗談。お陰で元気出た」
「よかった。ガンバレ」
「いつもありがと」
「なんの」
「じゃあね」
こっちから電話を切った。
本当はずっと話していたかった。
でもしなかった。