「辻沢ノーツ 70」
文字数 1,334文字
ユウが床に突き立ったロングスリコギを引き抜くと、奥の暗がりから2つの人影が蝋燭の光の中にゆらっと姿を現した。
一つは天井に頭が付くほど大きく、一つは小柄で口ひげを蓄えている。
2人は虚ろな目をして口から血泡を吹いていた。久しぶりの砂漠のゾンビ旅団。
ここにもサーリフくんはいなかった。
2人ともに無表情のままであたしの横を通り過ぎると、格子戸を開け階を降り出した。
外から生臭い空気が入ってくる。
寸劇・Zが階を3段ほど降りたところで動きを止めた。
ユウが壁のような2人の間を分けてその前に出た。
「何だ、邪魔が入っちゃったな」
というユウの声が聴こえた。他の人の声がしてるけど、何て言ってるのかあたしには分からない。
「あんたらの言いなりなんかにならないよ」
というユウの声がして、ものすごい勢いで戻って来たかと思うと、ジャンプ一閃ユウは屋根裏に消えた。
そして後から砂漠のゾンビ旅団の2人が無表情のままで戻って来て、奥の暗闇の中に再び消えた。
あたしが開け放たれたままの格子戸から恐る恐る外に出ると、社殿の前庭には誰もおらず、石段を人影が一つ昇ってゆくところだった。
あたしはその人を追いかけていいものか判断しかねたけれど、ユウがいなくなった社殿に用はないので、石段を戻ることにした。
けれど、その人影の足は速く、結局追いつけないまま人影は石畳のトンネルの中に消えてしまった。
石段を昇りきり石畳の奥に目をやると、先の方にたくさんの明りが見えた。
そこへ近づいて行けばそれはGさんたちなのだった。
心配になったから迎えに来たと言う。Kさんも一緒でLさんの肩につかまり立ちしていた。
「足をくじいて動けなかったの。ごめんなさい」
ずっとここにいたってこと?
「今、誰かここ通りませんでしたか?」
「いいや。誰も通らなかった」
他の人も首を横に振った。
じゃあ、あれはKさんではなかったのか。
Kさんを見ると膝が痛むのか、表情を歪ませて苦しそうだ。
「Kさん大丈夫ですか?」
「大丈夫、なんとか」
おそらく一人では歩けないのだろう。
改めて迷惑を掛けたことが申し訳なくなった。
Kさんたちと一緒に山道を戻りながら、もう一つユウに聞けばよかったと思った。
それは、あたしがAさん宅を追い出された日、ヤオマン・インからあたしのカバンを持ち出さなかったかと言うこと。
でも、それも今ではどうでもいいことのような気がした。
四ツ辻に戻るとすでにバスもなく、あたしはKさんのお宅に泊めさせて頂くことになった。
立ってるのが困難なKさんのために他の方々もしばらくいてくださり、皆さん一緒に台所に立って夕食の用意をしてくださった。
それがとても自然な感じで、いつもこんな風に生活をしているのじゃないかと思わせるものがあった。
あたしもお手伝いをしていてとて居心地がよかった。
「クロエちゃんは、Kさんとこのお嫁さんのようだよ」
Gさんが言う。
「こんな辛気臭い姑、嫌だよね」
Jさんが茶々を入れると、
「辛気臭くって悪かったね。あんただって、お嫁さんから結婚式当日に、お義母さん、絶対に同居しないにしましょうって言われた癖に」
少々きつめなんじゃないかなというKさんの返しをJさんは気にとめる風でもなく、
「そんなことあったかね」
と、とぼけた様子で笑っていた。
一つは天井に頭が付くほど大きく、一つは小柄で口ひげを蓄えている。
2人は虚ろな目をして口から血泡を吹いていた。久しぶりの砂漠のゾンビ旅団。
ここにもサーリフくんはいなかった。
2人ともに無表情のままであたしの横を通り過ぎると、格子戸を開け階を降り出した。
外から生臭い空気が入ってくる。
寸劇・Zが階を3段ほど降りたところで動きを止めた。
ユウが壁のような2人の間を分けてその前に出た。
「何だ、邪魔が入っちゃったな」
というユウの声が聴こえた。他の人の声がしてるけど、何て言ってるのかあたしには分からない。
「あんたらの言いなりなんかにならないよ」
というユウの声がして、ものすごい勢いで戻って来たかと思うと、ジャンプ一閃ユウは屋根裏に消えた。
そして後から砂漠のゾンビ旅団の2人が無表情のままで戻って来て、奥の暗闇の中に再び消えた。
あたしが開け放たれたままの格子戸から恐る恐る外に出ると、社殿の前庭には誰もおらず、石段を人影が一つ昇ってゆくところだった。
あたしはその人を追いかけていいものか判断しかねたけれど、ユウがいなくなった社殿に用はないので、石段を戻ることにした。
けれど、その人影の足は速く、結局追いつけないまま人影は石畳のトンネルの中に消えてしまった。
石段を昇りきり石畳の奥に目をやると、先の方にたくさんの明りが見えた。
そこへ近づいて行けばそれはGさんたちなのだった。
心配になったから迎えに来たと言う。Kさんも一緒でLさんの肩につかまり立ちしていた。
「足をくじいて動けなかったの。ごめんなさい」
ずっとここにいたってこと?
「今、誰かここ通りませんでしたか?」
「いいや。誰も通らなかった」
他の人も首を横に振った。
じゃあ、あれはKさんではなかったのか。
Kさんを見ると膝が痛むのか、表情を歪ませて苦しそうだ。
「Kさん大丈夫ですか?」
「大丈夫、なんとか」
おそらく一人では歩けないのだろう。
改めて迷惑を掛けたことが申し訳なくなった。
Kさんたちと一緒に山道を戻りながら、もう一つユウに聞けばよかったと思った。
それは、あたしがAさん宅を追い出された日、ヤオマン・インからあたしのカバンを持ち出さなかったかと言うこと。
でも、それも今ではどうでもいいことのような気がした。
四ツ辻に戻るとすでにバスもなく、あたしはKさんのお宅に泊めさせて頂くことになった。
立ってるのが困難なKさんのために他の方々もしばらくいてくださり、皆さん一緒に台所に立って夕食の用意をしてくださった。
それがとても自然な感じで、いつもこんな風に生活をしているのじゃないかと思わせるものがあった。
あたしもお手伝いをしていてとて居心地がよかった。
「クロエちゃんは、Kさんとこのお嫁さんのようだよ」
Gさんが言う。
「こんな辛気臭い姑、嫌だよね」
Jさんが茶々を入れると、
「辛気臭くって悪かったね。あんただって、お嫁さんから結婚式当日に、お義母さん、絶対に同居しないにしましょうって言われた癖に」
少々きつめなんじゃないかなというKさんの返しをJさんは気にとめる風でもなく、
「そんなことあったかね」
と、とぼけた様子で笑っていた。