「書かれた辻沢 20」
文字数 1,540文字
「なんでここにいる?」
再びスマフォに目を戻してサキが聞いてきた。
本当は次の潮時までの間だけでも自分のフィールドに戻りたかった。
でもクロエのことで引っかかることばかりだから、ひと夏中、辻沢にいることに決めたのだった。
それでコテージに籠もっていたのだけれどお尻のムズムズが止まらなくなって、ついに飛び出してきてしまった。
籠もっていた時に読んだミユウの『日記』からも、あたしは辻沢のことを知らなさ過ぎると痛感した。
記憶の糸を選り好みして読んで来たせいかもしれないが、ヴァンパイアのことや青墓の杜、地下道のことをまったく知らなかった。
それで辻沢のことをもっと知りたい、何がいいかと考えてたどり着いたのが『スレイヤー・R』だった。
ユウさんやまひるさんの話にも、ミユウの『日記』にも、町の噂にも出てきた、恐ろしげなリアルサバイバルゲーム。いったいどんなモノなのか。
「別のフィールドも見ておいた方がいいって鞠野先生に言われて」
すると、サキはスマフォから目をこちらに向けて、
「ふーん」
と言った。
「で?」
?
「話があるって」
「あ、そうそう。辻沢に入ってる子に同行しようって。邪魔で無ければだけど」
と言ったのは本当だ。
「ミユウやノタで無く、なんでウチなん?」
事情を知らないサキにしてみたら確かにそうだろう。
「サキって何してるんだっけ?」
「オーディエンスエスノだけど」
「対象は?」
「ゲーム」
それそれ。
「何ていう?」
「『スレイヤー・V』」
サキがスマフォの画面をこちらに向けて見せた。
画面にはびっかびかに煌めくエフェクト付きでキャラが表示されていた。
「レアアイテム、ゲット」
ちがーう。
『スレイヤー・V』というのは、ヤオマンシステム・ソフトウエア(YSS)が開発した、総ダウンロード数1000万本を超える人気モバゲーだ。
内容自体は単純なヴァンパイア狩りだけどアイテムやキャラデザインに魅力があるのが人気の理由だという。
それはサキの詳しすぎる説明で知れたけれど、あたしの目的は『R』のほうだった。
これは簡単に口を割らなさそうだから、ちょっと強引かもだけど、
「『スレイヤー・R』って知ってる?」
サキの表情に動揺が走った。そしてそれを隠すように下を向くと、
「やっぱりそうか」
と言ったのだった。
「やっぱり?」
「鞠野フスキから頼まれたんだろ?」
サキは窓の外を通り過ぎて行く人たちに目を走らせながら言った。
「いきなりフジノジョシが会いたいなんていうから変だと思ったんだ」
スマフォに添えられた指が小刻みに震えている。
「頼まれた?」
「ウチが『R』に参戦してないか探りを入れるように」
「まさか」
「違うの?」
「違うよ」
それからあたしが来た理由をちゃんと説明して一旦サキに落ち着いてもらった。
その後、スパイごっこみたいなことをどうして考えたかサキに聞いてみた。
サキの説明はこうだった。
辻沢に挨拶に来たとき勝手な行動をして鞠野先生にしかられ、これ以上勝手なことをしたら単位をもらえなくなると思った。
その勝手な行動というのが実は『R』で、フィールド入りしてからもバレたらやばいと思いながら参戦していた。
「祭りに合わせて『R』も出玉祭りしててさ」
出玉祭りとは? そろそろ迷子になりそうだ。
それとサキは『R』と言うときいちいち小声になるのだ。
それで
「別のところで話そうか」
と提案すると、
「そうだな。じゃあ、うち来なよ」
と言った。
あからさまに不安にしているサキに、
「気のせいかもよ」
と言ってみる。
実際のところサキのこの時の行動について鞠野先生は何も言ってなかったのだ。
「フジノジョシが言うなら、そうなのか」
と安堵した様子でサキは、冷めてそうな山椒コーヒーを口に含んだのだった。
「……まっず」
再びスマフォに目を戻してサキが聞いてきた。
本当は次の潮時までの間だけでも自分のフィールドに戻りたかった。
でもクロエのことで引っかかることばかりだから、ひと夏中、辻沢にいることに決めたのだった。
それでコテージに籠もっていたのだけれどお尻のムズムズが止まらなくなって、ついに飛び出してきてしまった。
籠もっていた時に読んだミユウの『日記』からも、あたしは辻沢のことを知らなさ過ぎると痛感した。
記憶の糸を選り好みして読んで来たせいかもしれないが、ヴァンパイアのことや青墓の杜、地下道のことをまったく知らなかった。
それで辻沢のことをもっと知りたい、何がいいかと考えてたどり着いたのが『スレイヤー・R』だった。
ユウさんやまひるさんの話にも、ミユウの『日記』にも、町の噂にも出てきた、恐ろしげなリアルサバイバルゲーム。いったいどんなモノなのか。
「別のフィールドも見ておいた方がいいって鞠野先生に言われて」
すると、サキはスマフォから目をこちらに向けて、
「ふーん」
と言った。
「で?」
?
「話があるって」
「あ、そうそう。辻沢に入ってる子に同行しようって。邪魔で無ければだけど」
と言ったのは本当だ。
「ミユウやノタで無く、なんでウチなん?」
事情を知らないサキにしてみたら確かにそうだろう。
「サキって何してるんだっけ?」
「オーディエンスエスノだけど」
「対象は?」
「ゲーム」
それそれ。
「何ていう?」
「『スレイヤー・V』」
サキがスマフォの画面をこちらに向けて見せた。
画面にはびっかびかに煌めくエフェクト付きでキャラが表示されていた。
「レアアイテム、ゲット」
ちがーう。
『スレイヤー・V』というのは、ヤオマンシステム・ソフトウエア(YSS)が開発した、総ダウンロード数1000万本を超える人気モバゲーだ。
内容自体は単純なヴァンパイア狩りだけどアイテムやキャラデザインに魅力があるのが人気の理由だという。
それはサキの詳しすぎる説明で知れたけれど、あたしの目的は『R』のほうだった。
これは簡単に口を割らなさそうだから、ちょっと強引かもだけど、
「『スレイヤー・R』って知ってる?」
サキの表情に動揺が走った。そしてそれを隠すように下を向くと、
「やっぱりそうか」
と言ったのだった。
「やっぱり?」
「鞠野フスキから頼まれたんだろ?」
サキは窓の外を通り過ぎて行く人たちに目を走らせながら言った。
「いきなりフジノジョシが会いたいなんていうから変だと思ったんだ」
スマフォに添えられた指が小刻みに震えている。
「頼まれた?」
「ウチが『R』に参戦してないか探りを入れるように」
「まさか」
「違うの?」
「違うよ」
それからあたしが来た理由をちゃんと説明して一旦サキに落ち着いてもらった。
その後、スパイごっこみたいなことをどうして考えたかサキに聞いてみた。
サキの説明はこうだった。
辻沢に挨拶に来たとき勝手な行動をして鞠野先生にしかられ、これ以上勝手なことをしたら単位をもらえなくなると思った。
その勝手な行動というのが実は『R』で、フィールド入りしてからもバレたらやばいと思いながら参戦していた。
「祭りに合わせて『R』も出玉祭りしててさ」
出玉祭りとは? そろそろ迷子になりそうだ。
それとサキは『R』と言うときいちいち小声になるのだ。
それで
「別のところで話そうか」
と提案すると、
「そうだな。じゃあ、うち来なよ」
と言った。
あからさまに不安にしているサキに、
「気のせいかもよ」
と言ってみる。
実際のところサキのこの時の行動について鞠野先生は何も言ってなかったのだ。
「フジノジョシが言うなら、そうなのか」
と安堵した様子でサキは、冷めてそうな山椒コーヒーを口に含んだのだった。
「……まっず」