「辻沢ノーツ 59」
文字数 981文字
棺桶が倒れることなどガン無視のゾンビ連中のせいで、あたしが下り道の間、棺桶を支えた。
台車の前に腰を下ろして背中を棺桶に付け、足でブレーキをする。
急に勢いが付いてしまい、棺桶が台車から落ちて崖下に落ちる寸前でサダム・Zにぶつかって止まった、なんて時もあった。
おかげで、あたしの足はパンパンで、背中は痛く、腰は伸ばせなくなった。
ようやく平坦な場所に出て来たのは、東の空がうっすらと明るくなる頃だった。
その道は一本道のまま、夜空の下半分を占める暗い影の領域に続いていた。その黒い領域とは、青墓の杜なのだった。
朝日が山の斜面を染め始めた頃、同行4人は青墓に入った。
森の中は時間によらずじめっとして外の気温より低く生臭い匂いがした。
朽ち葉を踏んで棺桶を乗せた台車が暗い森の中を進んで行く。
今や、寸劇・Zが何かに誘われているのは明らかで、奥へ奥へと旅団を導いて行く。
どれくらい経ったか、寸劇・Zが足を止めた。
道の先に山で見たのと同じ白い人影が佇んでいた。
今度はその姿がよく見て取れた。
夕霧太夫一行が吊り橋を渡った先の森の道で出会ったあの女。
顔立ち、姿すべてが夕霧太夫と同じ、あの白装束の女だった。
寸劇・Zは道を左に取った。
この道にあたしは見覚えがあった。
ここは、伊左衛門がひだる様の大群と対峙し、夕霧太夫のために命の緒を見極めた場所。
まさにあの場所だった。
また道の先に人影が。
ひだる様? ちがう。
あの和装の女だ。
「いざえもんがおくりましょう」
その女の声がそう言った。
黴臭い倉庫、木々の洞、朽ち果てたお堂、大樹の梢、風の通る道。
森の至る所から囁き声がした。
いつの間にか砂漠のゾンビ旅団は視界から消え失せていた。
そのかわりあたしの足もとには、勿忘草 色に輝く池が広がっている。
森の木々が畔を囲み、正面の樹間には白い女が佇んでいて、池を見つめている。
岸辺近くにはNさんの体が浮かんでいて、ゆっくりと中心に向かって移動しているところだった。
Nさんはあの時のように中心に進むにつれて変わって行く。
徐々に徐々に、ゆっくりゆっくりと変わって行くのだった。
Nさんの体が水を切るその波紋が池全体に広がり真ん中に至った時には、Nさんは美しく若々しい姿になっていたのだった。
やがて渦が起こり、Nさんは水中に引き込まれ、そして消えた。
「またすぐ会える」
あたしは夕霧太夫の言葉を口にしてみた。
台車の前に腰を下ろして背中を棺桶に付け、足でブレーキをする。
急に勢いが付いてしまい、棺桶が台車から落ちて崖下に落ちる寸前でサダム・Zにぶつかって止まった、なんて時もあった。
おかげで、あたしの足はパンパンで、背中は痛く、腰は伸ばせなくなった。
ようやく平坦な場所に出て来たのは、東の空がうっすらと明るくなる頃だった。
その道は一本道のまま、夜空の下半分を占める暗い影の領域に続いていた。その黒い領域とは、青墓の杜なのだった。
朝日が山の斜面を染め始めた頃、同行4人は青墓に入った。
森の中は時間によらずじめっとして外の気温より低く生臭い匂いがした。
朽ち葉を踏んで棺桶を乗せた台車が暗い森の中を進んで行く。
今や、寸劇・Zが何かに誘われているのは明らかで、奥へ奥へと旅団を導いて行く。
どれくらい経ったか、寸劇・Zが足を止めた。
道の先に山で見たのと同じ白い人影が佇んでいた。
今度はその姿がよく見て取れた。
夕霧太夫一行が吊り橋を渡った先の森の道で出会ったあの女。
顔立ち、姿すべてが夕霧太夫と同じ、あの白装束の女だった。
寸劇・Zは道を左に取った。
この道にあたしは見覚えがあった。
ここは、伊左衛門がひだる様の大群と対峙し、夕霧太夫のために命の緒を見極めた場所。
まさにあの場所だった。
また道の先に人影が。
ひだる様? ちがう。
あの和装の女だ。
「いざえもんがおくりましょう」
その女の声がそう言った。
黴臭い倉庫、木々の洞、朽ち果てたお堂、大樹の梢、風の通る道。
森の至る所から囁き声がした。
いつの間にか砂漠のゾンビ旅団は視界から消え失せていた。
そのかわりあたしの足もとには、
森の木々が畔を囲み、正面の樹間には白い女が佇んでいて、池を見つめている。
岸辺近くにはNさんの体が浮かんでいて、ゆっくりと中心に向かって移動しているところだった。
Nさんはあの時のように中心に進むにつれて変わって行く。
徐々に徐々に、ゆっくりゆっくりと変わって行くのだった。
Nさんの体が水を切るその波紋が池全体に広がり真ん中に至った時には、Nさんは美しく若々しい姿になっていたのだった。
やがて渦が起こり、Nさんは水中に引き込まれ、そして消えた。
「またすぐ会える」
あたしは夕霧太夫の言葉を口にしてみた。