「辻沢ノーツ 71」

文字数 1,272文字

 夕食後に、報告書をみなさんにお渡しした。

本当はその場で読んで聞いて頂きたかったけれど、皆さん一緒だし、夜も遅かったので後日素読するとお約束した。

 10時を過ぎて皆さん三々五々お帰りになった。

Kさんと二人だけになった後、お風呂を先に頂いて居間に戻ると、Kさんが台所の食卓でそこに置いておいた報告書を読んでいた。

Kさんが手にしていたのは引き取り手のなくなったNさんの報告書だった。

Nさんはあたしの目の前で燃え尽きてしまった。

ひだるだった。ユウがそう言った。

夕霧太夫の言葉のすぐ会えるというのはああいう形であるはずがない。

あたしはNさんをけちんぼ池に送ったんじゃなかったのだろうか。

Nさんがひだるだったから?

それともあれはただの夢だった?

報告書から目をあげたKさんが、

「どうだった? 驚いた?」

と唐突に聞いて来た。

あたしはNさんのことが頭を過り、どう話せばいいか分からなくなった。

先日亡くなっNさんらしきものがユウに殺された。

そんな話をすれば、頭がおかしい娘だと思われてしまうだろう。

あたしが答えに困っていると、

「ユウって子に会わなかったかい?」

と聞き直してきた。

「そっくりだったろう? クロエちゃんと」

普通に接していたけど、そういえばユウとあたしは外見がそっくりだった。

「あ、はい。そこはビックリでした」

「ちゃんと話はできたかい? あの子、変わってるから」

「はい」

「そっか。ならよかったよ」

そう言ったきり、Kさんはふたたび報告書に目をおとした。

Kさんは奥宮にユウがいると知ってたんだ。

奥宮に行くことになった時、ユウがいることをなんで予め話してくれなかったのだろう。

一緒に行くから会った時でいいと思ったのかもしれないけれど、

それでも、どこか腑に落ちない気がした。

まるでNさんのことも含めてユウとの遭遇が仕組まれていたかのようなそんな感じがした。

もし裏があったとしても、あたしはそれはそれでいいから、ユウのこと、夕霧太夫と伊左衛門の話こと、鬼子のこと、今引っかかっているすべてのことをKさんに聞きたくなった。

Kさんならすべての疑問に答えてくれそうだったから。

でも、Kさんの横顔はそれをかたくなに拒んでいるようで、あたしは何も言い出せなかった。



 Aさん宅に戻って、これまでのことを整理した。

いろいろなことが出来しているけど、何一つ分かっていない。

火中の自分が一番分かっていないことが分かったくらいだ。

その中で気になっているのはユウの一言、

「答えは自分で見つけるしかない」

奥宮でユウは青墓へ探し物に行くって言ってた。

この間の青墓での死闘、そしてアワノナルトとして青墓を荒しまわったのもユウだとするなら、ユウの答えの見つけ方は、きっと青墓に関わることなんだと思う。

それがユウの方法だ。

 じゃあ、あたしは? その方法は? 

ある。

こう見えてもあたしはフィールドワーカーの端くれだ。

フィールドワークはそこにあることを認知するためのものじゃない。

普段は隠れた物事を、常識では見えて来ないものを抉り出すためのものだ。

だから、あたしはあたし自身をフィールドワークする。

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