「辻沢ノーツ 35」

文字数 1,116文字

「青墓北堺まで」

(ゴリゴリーン)

ここからもサバゲーの人、結構乗ってくるんだ。

イタタタ。

ちょっと押さないでもらえます? 

わあ、このおじさんバスの天井に頭付いちゃってる。ぶっとい腕して、すごい引っかき傷ある。

ネコ科の大型動物にじゃれつかれた?

 大声の人乗ってきた。

ちゃらい感じでサバゲー一色の車内ではちょっと浮き気味。

「パイセン待ってくださいって。見てくださいよ、古山椒の木刀っすよ」

あの紙袋どこかで見たな。

「持たせてあげましょうか? すごい重いんすよ」

「しまえって」

「なんスカ。30万も出したのに。もっと褒められてよくないっすか?」

「何で?」

「何でって、ショップの人が一撃で倒すって言ってたじゃないっすか。ドラ焼きだかカルメ焼きだかを」

「・・・・」

「スルーしないでくださいよ。パイセンが欲しそうに見てたから、代わりに買ってあげたんじゃないっスカ」

「黙れよ」

「チェ。黙りますよ。ぼくだけ活躍しても後悔しないでくださいよ」

「すでに後悔してるよ。お前をPTに入れたことを」 

「なんだよ、それ。俺の課金目当てに誘ったくせによ」

「黙れって」

「うっせーな。センパイづらすんな、ハゲ。課金も出来ねー貧乏ユーザが」

「お前は傭兵、馘首だ!」

ハゲって言われたお兄さん、胸ポケットからカード出して破っちゃった。

「これで参加資格が無くなった。そのお宝持って次のバス停で降りるんだな」

「何してくれんだよ」

「お前のような奴のために、他のメンバーを死なせたくない」

「たかがゲームだろーが。死ぬとかって、バッカじゃねーの?」

その時あたしの頭の上からあのぶっとい腕が伸びて来て、大声の人の肩を押さえ込んだ。

「いててて。はなせよ、この寸劇の巨人」

「少し黙っててくれないか。そのたかがゲームのせいでみんな死ぬほどナーバスになってるんだ」

おじさんが白い歯を見せて莞爾と笑った。

大声の人はその威勢に飲み込まれて黙ってしまった。

次のバス停につくと大声の人は涙目で降りて行った。

周りはみんな迷惑そうにしてたから、バスの空気がこれで少しは明るくなるかと思ったら、どよーんとしたまま変わらなかった。

 青墓の杜が近づいてきた。

前方を見ると鬱々とした陰気を吐き出す黒い森がバスのフロントガラスを覆い尽くしている。

昼過ぎだと言うのに、森の中は樹木の奥が暗くてよく見えず、そこだけ冷たい湿った風が吹いていそう。

車内の人達の唾を呑む音が聞こえてくるようだった。

〈次は青墓北堺です。ちょっと待て、危ないにも程がある。お降りの方は命の落とし物をしないようお戻りください〉

(ゴリゴリーン)

サバゲーの人たちみんな降りてった。

ひどい案内。アナウンスのせいで、みんなドナドナ状態だったじゃない。

可哀想に。
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