「辻沢日記 44」
文字数 1,702文字
今日は床下の調査をする。
昨日四ツ辻に帰ると役場の教育委員会から床板を外す許可証が届いていた。
町長室の秘書さんが手配してくださったのだ。
クロエに電話した時にそのことを話したら、秘書さんに頼んであげるって言ったから、図面等の資料をメールして、それから2日も経ってない。
クロエってば、フィールドに入って人が変わったみたいに積極的になった。
「ミユウ、あのさ……」
振り返ると、入口にまっぱのユウが立っていた。
裸族か? 野生児か?
「ちょっと服ぐらい着なよ。いくら人がいないって言ったって」
「うるさいな。ママかあんたは」
と言うと床を一蹴り、天井裏に消えた。
しばらくして、白パーカーに短パン姿のユウが下りてきた。
「で、何?」
「ん?」
「さっき、何か言いかけてたじゃん」
「ああ、あれはもういい。それよりメシ。腹減った」
まただ。こうしてユウとの間に歪みができる。
でも、全部あたしのせいなのかもしれない。
ユウはいつも真正面からぶつかって来る。
それを余計なことを間に差し挟んでいなしてしまうのはあたしの方なのだ。
「おにぎりでいい?」
「じゃあ、それで」
と言ってさっさと食べ始める。
よっぽどお腹が空いていたのか、すごい勢いで三つまで食べると、絶対あたしの分って思ってた残りの一つにも手を出して食べ始めた。
あたし、お昼まで保つかな。
おにぎりを食べながら、今日の作業内容を伝える。
「床下に入るんだ。いいけど、何にもないと思うよ」
「見たの?」
「いや、ここを歩いてたらわかるじゃない」
と言って、床をドスドスと踏み鳴らした。
「いかにも空っぽ」
確かに、下に何かあるような響きではない。
でも、それが知りたいわけじゃないからと言うと、
「またく。変態さんの考えることにはついていけないよ」
「どうして?」
「普通は何かあるのを期待しないか。なのに空っぽでもいいって」
「宝探しじゃないから」
「じゃあ何ゲー?」
「そもそもゲームじゃないし。この建築物を記録するのが目的だから」
「記録するのが楽しいんだ」
興味なさそうに言う。
「いやなの?」
あたしはユウの顔を覗き込んだ。
「まあ、いいよ。今日は暇だし付き合うよ」
ユウは少しうつむき加減で、おにぎりの銀紙を丸めながら言った。
「ありがとう」
「いいや」
と言って銀紙のボールを社殿の奥に投げるから、あたしが取りに行かねばならなかった。
まず床板をはがす。
木片を置き持参したバールで新しい板の釘を抜いた。
板を剥がし、できた隙間から中を覗くと思った通り階段になっている。
でも階段になっているのが災いして数枚剥がしただけで体を滑り込ませるというわけにはいかなかった。
あたしが通れるくらいになるには、結構な枚数を剥がさねばならなかった。
ようやく屈みながらも階段を下りられるようになったので中に入る。
懐中電灯を暗闇に向かって照らしてみる。
そこは、ユウが言った通りのまったく何もない、長年閉じ込められていた空気が淀んでいるだけの空間だった。
階段を下りる。
ぎしぎしと鳴りはするけど腐ってはいないよう。
昨日の雨が浸水しているかと思ったけれど、どちらかと言えば乾燥していてほこりが舞っているほど。
踏み抜かないように用心しながら床面に降りる。
懐中電灯で暗がりを照らして見た。
「なんか違う」
そこに広がっていたのは天井が低い、上と同じ形の空間だった。
「どうした?」
あとから下りて来たユウが言った。
「うん、もっとドラマチックな展開期待してた」
「どういう?」
「夕霧物語に関連するような」
「けちんぼ池があるって?」
「そうじゃなくて」
ユウは夕霧物語即ちけちんぼ池だろうけど……。
もっと何か無いか懐中電灯を照らして室内を探して見た。
「何探してる?」
「羽目板」
「さらに下を求めてるんだ?」
「だってここ、これじゃない感しかないから」
と言ってたら一番奥のところにそれがあった。
格子になった羽目床。
「あった。やっぱり」
「おー、ミユウの執念勝ちだね」
「手伝って、これとれるかやってみたい」
二人で格子を持ってせーので外すと、拍子抜けするほど簡単に持ち上がった。
横に置いて中に懐中電灯を差し入れてみる。
「ビンゴ」
あたしは思わずが叫んでいた。
昨日四ツ辻に帰ると役場の教育委員会から床板を外す許可証が届いていた。
町長室の秘書さんが手配してくださったのだ。
クロエに電話した時にそのことを話したら、秘書さんに頼んであげるって言ったから、図面等の資料をメールして、それから2日も経ってない。
クロエってば、フィールドに入って人が変わったみたいに積極的になった。
「ミユウ、あのさ……」
振り返ると、入口にまっぱのユウが立っていた。
裸族か? 野生児か?
「ちょっと服ぐらい着なよ。いくら人がいないって言ったって」
「うるさいな。ママかあんたは」
と言うと床を一蹴り、天井裏に消えた。
しばらくして、白パーカーに短パン姿のユウが下りてきた。
「で、何?」
「ん?」
「さっき、何か言いかけてたじゃん」
「ああ、あれはもういい。それよりメシ。腹減った」
まただ。こうしてユウとの間に歪みができる。
でも、全部あたしのせいなのかもしれない。
ユウはいつも真正面からぶつかって来る。
それを余計なことを間に差し挟んでいなしてしまうのはあたしの方なのだ。
「おにぎりでいい?」
「じゃあ、それで」
と言ってさっさと食べ始める。
よっぽどお腹が空いていたのか、すごい勢いで三つまで食べると、絶対あたしの分って思ってた残りの一つにも手を出して食べ始めた。
あたし、お昼まで保つかな。
おにぎりを食べながら、今日の作業内容を伝える。
「床下に入るんだ。いいけど、何にもないと思うよ」
「見たの?」
「いや、ここを歩いてたらわかるじゃない」
と言って、床をドスドスと踏み鳴らした。
「いかにも空っぽ」
確かに、下に何かあるような響きではない。
でも、それが知りたいわけじゃないからと言うと、
「またく。変態さんの考えることにはついていけないよ」
「どうして?」
「普通は何かあるのを期待しないか。なのに空っぽでもいいって」
「宝探しじゃないから」
「じゃあ何ゲー?」
「そもそもゲームじゃないし。この建築物を記録するのが目的だから」
「記録するのが楽しいんだ」
興味なさそうに言う。
「いやなの?」
あたしはユウの顔を覗き込んだ。
「まあ、いいよ。今日は暇だし付き合うよ」
ユウは少しうつむき加減で、おにぎりの銀紙を丸めながら言った。
「ありがとう」
「いいや」
と言って銀紙のボールを社殿の奥に投げるから、あたしが取りに行かねばならなかった。
まず床板をはがす。
木片を置き持参したバールで新しい板の釘を抜いた。
板を剥がし、できた隙間から中を覗くと思った通り階段になっている。
でも階段になっているのが災いして数枚剥がしただけで体を滑り込ませるというわけにはいかなかった。
あたしが通れるくらいになるには、結構な枚数を剥がさねばならなかった。
ようやく屈みながらも階段を下りられるようになったので中に入る。
懐中電灯を暗闇に向かって照らしてみる。
そこは、ユウが言った通りのまったく何もない、長年閉じ込められていた空気が淀んでいるだけの空間だった。
階段を下りる。
ぎしぎしと鳴りはするけど腐ってはいないよう。
昨日の雨が浸水しているかと思ったけれど、どちらかと言えば乾燥していてほこりが舞っているほど。
踏み抜かないように用心しながら床面に降りる。
懐中電灯で暗がりを照らして見た。
「なんか違う」
そこに広がっていたのは天井が低い、上と同じ形の空間だった。
「どうした?」
あとから下りて来たユウが言った。
「うん、もっとドラマチックな展開期待してた」
「どういう?」
「夕霧物語に関連するような」
「けちんぼ池があるって?」
「そうじゃなくて」
ユウは夕霧物語即ちけちんぼ池だろうけど……。
もっと何か無いか懐中電灯を照らして室内を探して見た。
「何探してる?」
「羽目板」
「さらに下を求めてるんだ?」
「だってここ、これじゃない感しかないから」
と言ってたら一番奥のところにそれがあった。
格子になった羽目床。
「あった。やっぱり」
「おー、ミユウの執念勝ちだね」
「手伝って、これとれるかやってみたい」
二人で格子を持ってせーので外すと、拍子抜けするほど簡単に持ち上がった。
横に置いて中に懐中電灯を差し入れてみる。
「ビンゴ」
あたしは思わずが叫んでいた。