264 お父さんとお母さんならどっち?
文字数 1,261文字
誠に不甲斐ないし申し訳ないのだけれども『エクステリアの迫田 』としての急ぎの仕事のために真直 ちゃんに高校を休んで手伝って貰った。
いや、手伝って貰うなんてレベルじゃないな。
「蓮見 さん、この門扉はこのカットでいい?」
「うん。建材は杉の二枚板で」
「えー。採算大丈夫?」
「いや。迫田さんがもうこれで請けちゃってるんだ」
「それはおじいちゃんの熟練の技術でロスが出ない作業工程の場合でしょ?蓮見さんとわたしでそれができる?」
元請けの建設業者を通じて仕様を変更してもらった。
「ごめん」
「気にしない気にしない。ひゃひゃひゃ」
真直ちゃんは子供の頃から迫田さんの現場に親しんでる。おばあちゃんがご存命の頃は赤子の真直ちゃんを背中におぶって迫田さんが棟梁として仕切っている建築現場に連れて行っていたらしい。
おばあちゃんもご両親も亡くなってからは真直ちゃんは迫田さんに一層べったりだったろうし、高校で土木建築科に入ったのも自然な流れなんだろう。
「いらっしゃい真直ちゃん」
「縁美 さん、こんばんは」
今夜は僕らのアパートで3人で晩御飯を食べる。
大事な話もあるし。
「蓮見くん」
「う、うん」
縁美に促されて咳払いをして切り出した。
「ま、真直ちゃんのご親戚は全員県外だよね。従姉妹の捻美 ちゃんのご家族も隣県だ。そして家業である『エクステリアの迫田』は作業所もお客さんもこの県が基盤だ」
「はい」
「幸い御親族は全員相続放棄を了承してくれたから後は司法書士の先生を通じて裁判所に手続きを取れば商売用の預金も使えるはずだ」
「はい」
「でも真直ちゃんは未成年だ」
「はい」
「僕は真直ちゃんのイタズラの度合いは子供のレベルを超えてると思うけど一応はまあ子供で。そして扶養者がいないと様々な不都合が生じてくる」
「はい」
「だから・・・・・・その・・・・・・い、言い出しっぺの司法書士の先生に責任をなすりつけるわけじゃないけど・・・・・その・・・・・・」
「真直ちゃん。蓮見くんの養子にならない?」
あ。
縁美に言われてしまった。
「ぼ、僕は一応20歳だ。特別養子縁組は夫婦で且つ片方が25歳以上でないと養親になれないけど、普通養子縁組ならば未婚でもよくて成人の僕が単独で真直ちゃんの養親になれる。ただ20歳の親に15歳の子供っていう特殊なケースだから家庭裁判所の許可が必要らしいけど」
「はい」
真直ちゃんは決して投げやりにはいはい返事を繰り返してる訳じゃない。
他に反応のしようが無いんだ。
縁美が食卓のローテーブルに正座したままで上半身を折り曲げた。
「真直ちゃん。蓮見くんの・・・・・ううん、わたしたちの子供になって?」
縁美のセリフで初めて真直ちゃんの表情が動いた。
ちょっと怒ったような・・・・でも多分それは真直ちゃんの一番真面目な顔なんだろう。
「縁美さん」
「は、はい」
「よろしくお願いします」
多分、その言葉は彼女が発する役回りではない言葉なのかもしれないけど、縁美は長いまつげの下に急速に涙を滲ませてやっぱりその言葉を言わずにはいられなかった。
「ありがとう!」
いや、手伝って貰うなんてレベルじゃないな。
「
「うん。建材は杉の二枚板で」
「えー。採算大丈夫?」
「いや。迫田さんがもうこれで請けちゃってるんだ」
「それはおじいちゃんの熟練の技術でロスが出ない作業工程の場合でしょ?蓮見さんとわたしでそれができる?」
元請けの建設業者を通じて仕様を変更してもらった。
「ごめん」
「気にしない気にしない。ひゃひゃひゃ」
真直ちゃんは子供の頃から迫田さんの現場に親しんでる。おばあちゃんがご存命の頃は赤子の真直ちゃんを背中におぶって迫田さんが棟梁として仕切っている建築現場に連れて行っていたらしい。
おばあちゃんもご両親も亡くなってからは真直ちゃんは迫田さんに一層べったりだったろうし、高校で土木建築科に入ったのも自然な流れなんだろう。
「いらっしゃい真直ちゃん」
「
今夜は僕らのアパートで3人で晩御飯を食べる。
大事な話もあるし。
「蓮見くん」
「う、うん」
縁美に促されて咳払いをして切り出した。
「ま、真直ちゃんのご親戚は全員県外だよね。従姉妹の
「はい」
「幸い御親族は全員相続放棄を了承してくれたから後は司法書士の先生を通じて裁判所に手続きを取れば商売用の預金も使えるはずだ」
「はい」
「でも真直ちゃんは未成年だ」
「はい」
「僕は真直ちゃんのイタズラの度合いは子供のレベルを超えてると思うけど一応はまあ子供で。そして扶養者がいないと様々な不都合が生じてくる」
「はい」
「だから・・・・・・その・・・・・・い、言い出しっぺの司法書士の先生に責任をなすりつけるわけじゃないけど・・・・・その・・・・・・」
「真直ちゃん。蓮見くんの養子にならない?」
あ。
縁美に言われてしまった。
「ぼ、僕は一応20歳だ。特別養子縁組は夫婦で且つ片方が25歳以上でないと養親になれないけど、普通養子縁組ならば未婚でもよくて成人の僕が単独で真直ちゃんの養親になれる。ただ20歳の親に15歳の子供っていう特殊なケースだから家庭裁判所の許可が必要らしいけど」
「はい」
真直ちゃんは決して投げやりにはいはい返事を繰り返してる訳じゃない。
他に反応のしようが無いんだ。
縁美が食卓のローテーブルに正座したままで上半身を折り曲げた。
「真直ちゃん。蓮見くんの・・・・・ううん、わたしたちの子供になって?」
縁美のセリフで初めて真直ちゃんの表情が動いた。
ちょっと怒ったような・・・・でも多分それは真直ちゃんの一番真面目な顔なんだろう。
「縁美さん」
「は、はい」
「よろしくお願いします」
多分、その言葉は彼女が発する役回りではない言葉なのかもしれないけど、縁美は長いまつげの下に急速に涙を滲ませてやっぱりその言葉を言わずにはいられなかった。
「ありがとう!」