THIRTY-THREE ビールとワイン酔うならど・ち・ら?

文字数 1,021文字

 縁美(えんみ)も僕もお酒は余り飲めない。
 けど、時々ほんの嗜む程度に酌み交わす。

 そう。金曜の夜なんかに。

「じゃあ。蓮見くん、一週間お疲れさまでした!」
「うん。お疲れ様、縁美」

 350mlの缶ビールを、カコっ、と触れ合わせて、くぴ、と飲む。

 缶の(ふち)にぴったりと触れる縁美の唇がなんだかなまめかしい。

「お酒を飲むと、大人、って感じだよね」
「うん」

 縁美に同意する僕だけど実はお酒よりも、アパートのローテーブルで一週間を終えた男女がふたり向き合うというシチュエーションそのものが大人っぽいと感じる。

 おつまみはスーパーで縁美が任されて仕入れているこだわりのお豆腐の冷奴。

「ほんとはね。パックされた豆腐じゃなくて、お豆腐用の水槽に入れておいてお客さんが持ってきたお鍋とかボウルとかに入れて持ち帰って貰うなんて方法も提案したんだけどね。却下されちゃった」
「ふーん。いいアイディアだと思うけど」
「そうだよね!?蓮見くんもそう思うよね!?」

 縁美はビールひと缶でもう酔っているようだ。
 まあ、僕だって同じなんだけど。

「じゃあ、蓮見くん」
「はい」

 思わず敬語になる僕。

「ワインを開けましょう」
「はい」

 一本まるまるを飲むことができないので、かわいらしい小瓶の白ワインを開ける。
 これも縁美がスーパーで買ってきてくれた今流行っている南アフリカ産のワインだ。

「瓶が山の形?」
「うんー・・・そ、らしいの」

 酔ってる。

 かわいい。

 そもそもふたりとも量を飲めないので、おつまみも特にしっかりと必要な訳じゃない。
 お互いの顔を見つめ合って飲むだけ。

 僕が、わがままを言った。

「なんか、このまま寝るとお酒が残っちゃいそうだから。お味噌汁が食べたい」
「えー・・・」

 縁美は少し迷惑そうに反応する。
 でも、すぐにやはり迅速に反応した。

「じゃあ、明日の朝ごはん用に作ってあったお味噌汁、前倒しで少しどうぞ」

 そう言って小鍋に二杯分だけ移して温める。

「はい」
「ありがとう」

 わかめとジャガイモの味噌汁。
 味噌のくどさが際立つ具なので、みそ汁を飲んだらまたお酒が飲みたくなって、みそ汁→ワイン→味噌汁をしばし繰り返した。

「蓮見くん」

 ん?

「どうしてお酒を飲むと、楽しくなるんだろね」

 それからこうも言った。

「どうしてお酒を飲むと、大胆になれるんだろね・・・」

 縁美の唇が僕の唇に迫ってくる。

 目を閉じた。

 軽く触れあわせて、そして離れた。

 ふたり同時につぶやいた。

「「お酒臭い・・・」」
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