240 出稼ぎとでか過ぎならどちら?

文字数 1,174文字

 三春(みはる)ちゃんがこの街に帰ってくる。

 北海道から。

 と言っても冬の間だけだけど。

蓮見(はすみ)せんぱぁい、縁美(えんみ)さぁん、こんばんは、ですぅ』

 僕と縁美は金曜の夜アパートに戻ってから三春ちゃんとテレビ電話で話した。

「三春ちゃん。ほんとに単身赴任なの?」
『そうなんですよぉ、蓮見せんぱぁい。愛しのベビーともしばしお別れですぅ』
「お姑さんがお世話してくれるの?」
「はい、そうですぅ、縁美さぁん。お義母(かあ)さんにおんぶに抱っこですぅ」

 上手いこと言うと思ったけど、実際大変だろうな・・・・・

 つまりサラトちゃんが女子バドミントン屈指の強豪実業団チーム『東城トランスポート』に加入するため、(有)零細清掃社を電撃退社することになり、急遽後釜を社長は探したって訳だ。

「三春ちゃん。他に誰か居なかったの?」
『社長は春になったら中卒か高卒の子を新規採用したいんですよ。あと2ヶ月ちょっとの間の超短期間だけ、美咲(みさき)さんの相棒が即勤まるって言ったら経験者のわたししか居ない、っていうことでぇ』
「実家に住むの?」
『実家は兄貴夫婦が居てダメなんですぅ。ウイークリーマンションとか探してるんですけどぉ、急過ぎてぇ』
「蓮見くん、蓮見くん」
「?なに?縁美」
「大家さんが・・・・・」

 あっ。

 でも・・・・・・・・

「三春ちゃん。僕らのこのアパート、一室空いてるんだけど」
『えっ!ほんとですかぁ?渡りに船ですぅ!』
「ただ・・・・ちょっと難点が」
『なんですかぁ?狭い古いボロいぐらいなら平気ですよぉ。母は強し、ですぅ』
「いや、出るんだよね」
『?ユーレーですかぁ?』
真直(まなお)という生物が」

 一応色々と警告だけした上で後で直接大家さんに電話するって言ってた。
 三春ちゃんは久しぶりなので僕らとまだまだお喋りしたがった。

『つまりこれは出稼ぎなんですよぉ』
「いや、違うでしょ。北海道っていうメジャーな都会からこのマイナーな地元に戻るのは都落ちみたいなもんでしょ」
『蓮見せんぱぁい、ダメですよぉ、地元を卑下してはぁ』
「でも、さあ・・・・」
『これは誰が何と言おうと「出稼ぎ」なんですぅ。わたしは旦那がお義父(とう)さんお義母(かあ)さんのお世話をしないといけないから北海道で同居すけどぉ、ほんとうは人間地元で暮らすのが一番なんですよぉ』
「北海道は素敵な所なのに?」
『わたしは渡り鳥みたいなもんですぅ。カー、カー』

 カラスは渡らないだろう。

「でも赤ちゃんまだ小さいのにお姑さんも大変だね」

 縁美が三春ちゃんにそう話かけると、けたたましい泣き声が聞こえてきた。

『ウチのベビーちゃんお見せしますねぇ』

 確かまだ生後半年も経ってないはずだけど・・・・・

「えっ!」
「わっ!」

 髪の毛ふさふさ!
 顔がはちきれそう!
 腕と脚が・・・バルーンアート!

「み、三春ちゃん・・・・じゅ、順調なんだね・・・・」
『かわいいでしょぉ』

 ・・・・・・でか過ぎるよ!
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