234 バカ正直とクソ真面目ならどっち?

文字数 1,101文字

 絵プロ鵜(えぷろう)が地元フリーペーパーのインタビューを受けた。

「絵プロ鵜先生、今日はよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願い、します・・・せ、先生はやめるさね・・・」
「あ、すみません。では絵プロ鵜さん。地方に拠点を置きながらメジャー誌の連載を抱えておられる訳ですが、創作にあたってのモットーとかお持ちですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・正直、かね・・・」
「『正直』、ですか?」
「そうさね。正直に漫画を書くことが(それがし)の大切にしていることさね」
「具体的に言うと」
「某は実は空想力がそんなに豊かじゃないさね。デビュー前はファンタジーの短編を週一本投稿のノルマを課しておったのさね。でもプロットを組み立てる時点で『事実を捻じ込ま』ないととても書けなかったさね」
「ファンタジーなのにですか?」
「そうさね」
「『事実を捻じ込む』とは?」
「一番分かりやすいのがキャラ設定さね」
「それって、たとえば身長とか体重とか髪や目の色とか性格とか生い立ちとかを精緻に設定するってことですか?きちんと数値データも添えて」
「その、逆さね」
「ええと・・・・」
「たとえば某の質量は刻一刻と変わるさね。身長も一瞬たりとも同じじゃないさね。大まかな輪郭はあったとしても手足を動かすごとに某のカラダは一瞬たりとも同じ形にならないさね。ロボットすら」
「ロボットすら?」
「ワンストローク稼働するごとに摩耗するさね」
「それと『正直』とどう関わるんですか?」
「某のキャラも作品全体も某がコントロールできないと正直に認めて書くさね」
「すごく投げやりじゃないですか?アマチュアみたいじゃないですか?」
「なら逆に訊くさね」
「はい」
「漫画を読むとき、某の思考の支配下にあって作品にのめり込めるかね?」


 サラトちゃんがバドミントン・ジュニア世界女王を破ったのに当たり、ローカルTV局の夕方のニュースでインタビューを受けた。

「練習はハードなんでしょうね?」
「そうでもないです」
「それはもうハードさが当たり前になっているからじゃ?」
「そうですね」
「ええと・・・・・もうすこし面白いコメントをいただけると嬉しいですね」
「面白い?」
「(リアクションとか返しを意識しろよ。ファンがつかねえぞ)せっかく美人なんですから、ちょっとは愛想ふりまいてくださいよー」
「バドミントンには関係無い要素ですよね」
「・・・・・・・マジメですねえ」
「今、片仮名で『マジメ』っておっしゃいましたね」
「えっ、えっ、片仮名とかひらがなとか、別に・・・・」
「はっきり申し上げます。わたしがバドミントンを通じて実現したいのは真面目な人間を決して馬鹿にしたりしない風潮です。正直者が馬鹿を見ない世の中です」
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