128 劇的とドラマティックならどっち?

文字数 1,086文字

 連休最後の夜。明日からまた仕事だ。

蓮見(はすみ)くん、炊飯器セットは?」
「うん。米砥ぎ、セットOK。縁美(えんみ)の方は?」
「洗い物も全部終わったよ!」

 こうしてすべての作業を終えて僕と縁美は布団の上でパジャマに着替える。

 親しき中にも礼儀あり、で、いつもなら僕と縁美は互いの着替えの姿を見せることは無いんだけど、この時だけはそうも言ってられない。

「蓮見くん、始まるよ!」
「う、うん」

 すりっ、と座ってデニムを脱いで下着を見せながら着替えている縁美に目が行きそうにもなるけれど、我慢して僕も急いで着替えた。

『劇薬的恋愛手法』

 何かというとテレビドラマだ。
 いつもは平日の放映なんだけど連休だからその最後の今夜ってことになるんだ。

 映画は観るけど余りドラマなんかは観ない僕と縁美だけど、この番組だけは欠かさずに観ている。

 設定はざっとこんな感じ。

 ・主人公は何事にも淡泊な大学生男子。平穏無事な毎日に特に退屈することもなく、ずっとこういうまったりした時間を過ごせたらと考えている。
 ・ヒロインは同じ大学の同級生。主人公とは対照的に日々にイベントが欲しいというよりはインシデントが欲しいと物色する女子。
 ・主人公はヒロインに惹かれながらも床が抜けてブレーキの効かなくなったオープン・カーからブーツをアスファルトに接触させて停車を試みたり、小型の爆弾を彼女からトスされてギリギリのタイミングで海に捨てたり、ユーレイが出ると言われているトンネルで出口を作るために山一個消失させたり・・・
 ・そういう日々に体力面でも精神面でもどんどん疲弊していく主人公が、それでもヒロインを想うがあまり無理やりな現実を生き残っていく。

 実写ドラマにもかかわらず相当にエキセントリックでスラップスティックな展開で繰り広げられる物語だ。

「蓮見くん。今日こそ告白するかな?」
「どうかな・・・先週もいい雰囲気になったところで壁を破っていきなり戦車が突入してきたからね・・・」
「みんな真面目に観てるのかな?」
「さあ」

 とは言いながらこのドラマの演出が執拗なまでにリアルなんだ。
 観ていると途中でラブコメであることすら忘れてしまうぐらいに滅茶苦茶なエピソードの連続なんだけど、どうにも言えないリアリティがある。

「あ!うわっ!」
「きゃ!蓮見くん!」
「え?ええっ!?」
「嘘!?そんな・・・・・」

 どうだろうか。
 今週のエピソードの内容が分かるだろうか。

 分かる訳ないか。

「終わったね、縁美」
「うん。あ、蓮見くん。次週予告だよ」
「うん」

 僕と縁美は声を揃えた。

『ヒロイン、死す!爆破30秒前!!』

 スタッフは全員過労死直前なのかな。

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