SEVENTEEN 星と月ならどちらが綺麗?
文字数 1,210文字
今宵ふたりで峠道。
バスに揺られていざ行かん。
バスは天文台に横付けになる訳じゃなくって、少し下のバス停で降りて5分ほど歩かなくちゃいけなかった。『クマに注意!』『イノシシ出没中!』の立て看板がある標高300mほどの小さな山の峠道を並んで歩く僕と縁美 。
「蓮見 くんは天文台には?」
「小学生の頃遠足で一度だけ」
「じゃあ、わたしと出会う前だね」
縁美はそう言うけど、中学一年生で同じクラスになった僕らは三年生になるまで一度も喋ったことが無くって、どの時点が出会いだったのか微妙だ。
僕らの街の小さな天文台はこの時期になると星座教室と称して併設された小さなプラネタリウムで特別展をする。僕はプラネタリウムよりも実際の夜空を山の澄んだ空気の中で見るのが楽しみなんだけれど。
天文台に着くと何組かの幼稚園や小学生の親子連れが専門官の説明を受けていた。
「この季節の星座を簡単に見つける方法はですね・・・」
縁美が僕に声をかける。
「ヤク座と文芸座ならどっち?」
「え?」
縁美がこのタイミングで冗談とは。
「イ座コ座はごめんだよ」
笑えない僕の返しに愛想笑いしてくれる優しい縁美。
ふたりで親子たちの列から離れて天文台外の崖の淵にある原っぱに出た。
僕らの街は星空が見えないような寂しい街ではないけれど、この位置から見える無数の星はまた別格だった。
「わあ・・・綺麗・・・」
星の光の照り返しなんてある訳ないけど、でも縁美の頬がいつもよりもより艶やかに見えるのは何か澄んだ光に照らされているからだと思わざるを得なかった。
「月か・・・」
「え?」
「いや、ええと・・・」
僕は白状しようかどうしようか迷った。迷ったなら言ってラクになる方を選んだ。
「星の光の何倍も明るい月の光みたいだ」
「?何が?」
「縁美が・・・」
「⚡︎⚡︎⚡︎!・・・・」
僕は縁美の恥じらう顔を見たかったけど、自分の火照った間抜けな顔を見られたくなかったのでもう少しで満月の月を見上げたままでいた。
ピントが合ったみたいに澄んではっきりと光の輪郭が見える月影。
縁美がどういう訳か脈絡の無いセリフを口にした。
「は、花火でも上がるといいね」
「え。それって、何?」
「な、何言ってるんだろね、わたし」
「縁美」
「は、はい」
「星って、ずっと近づいたらきっと月みたいなんだろね」
「あ。そうかも」
映画の中のふたりのように、焦点を月に当てたまま、視界に入ってくる縁美の白い顎のラインに、とても女性らしい色香を感じずにはいられなかった。
と同時に月という明確なターゲットじゃなく、無数の絵筆を弾いてホワイトをベタに吹き付けたような星の集団を焦点をぼかしてぼやっと眺める僕と縁美の瞳もあった。
月が綺麗。
これを好きという意味と捉える文学的解釈があると最近は評判だ。
じゃあ、『星が綺麗』は?
「大好きだよ。縁美」
「は、蓮見くん・・・」
縁美は月と星から焦点を僕の瞳に当て直す。
「わたしも、大好き」
バスに揺られていざ行かん。
バスは天文台に横付けになる訳じゃなくって、少し下のバス停で降りて5分ほど歩かなくちゃいけなかった。『クマに注意!』『イノシシ出没中!』の立て看板がある標高300mほどの小さな山の峠道を並んで歩く僕と
「
「小学生の頃遠足で一度だけ」
「じゃあ、わたしと出会う前だね」
縁美はそう言うけど、中学一年生で同じクラスになった僕らは三年生になるまで一度も喋ったことが無くって、どの時点が出会いだったのか微妙だ。
僕らの街の小さな天文台はこの時期になると星座教室と称して併設された小さなプラネタリウムで特別展をする。僕はプラネタリウムよりも実際の夜空を山の澄んだ空気の中で見るのが楽しみなんだけれど。
天文台に着くと何組かの幼稚園や小学生の親子連れが専門官の説明を受けていた。
「この季節の星座を簡単に見つける方法はですね・・・」
縁美が僕に声をかける。
「ヤク座と文芸座ならどっち?」
「え?」
縁美がこのタイミングで冗談とは。
「イ座コ座はごめんだよ」
笑えない僕の返しに愛想笑いしてくれる優しい縁美。
ふたりで親子たちの列から離れて天文台外の崖の淵にある原っぱに出た。
僕らの街は星空が見えないような寂しい街ではないけれど、この位置から見える無数の星はまた別格だった。
「わあ・・・綺麗・・・」
星の光の照り返しなんてある訳ないけど、でも縁美の頬がいつもよりもより艶やかに見えるのは何か澄んだ光に照らされているからだと思わざるを得なかった。
「月か・・・」
「え?」
「いや、ええと・・・」
僕は白状しようかどうしようか迷った。迷ったなら言ってラクになる方を選んだ。
「星の光の何倍も明るい月の光みたいだ」
「?何が?」
「縁美が・・・」
「⚡︎⚡︎⚡︎!・・・・」
僕は縁美の恥じらう顔を見たかったけど、自分の火照った間抜けな顔を見られたくなかったのでもう少しで満月の月を見上げたままでいた。
ピントが合ったみたいに澄んではっきりと光の輪郭が見える月影。
縁美がどういう訳か脈絡の無いセリフを口にした。
「は、花火でも上がるといいね」
「え。それって、何?」
「な、何言ってるんだろね、わたし」
「縁美」
「は、はい」
「星って、ずっと近づいたらきっと月みたいなんだろね」
「あ。そうかも」
映画の中のふたりのように、焦点を月に当てたまま、視界に入ってくる縁美の白い顎のラインに、とても女性らしい色香を感じずにはいられなかった。
と同時に月という明確なターゲットじゃなく、無数の絵筆を弾いてホワイトをベタに吹き付けたような星の集団を焦点をぼかしてぼやっと眺める僕と縁美の瞳もあった。
月が綺麗。
これを好きという意味と捉える文学的解釈があると最近は評判だ。
じゃあ、『星が綺麗』は?
「大好きだよ。縁美」
「は、蓮見くん・・・」
縁美は月と星から焦点を僕の瞳に当て直す。
「わたしも、大好き」