207 アウトレットとアウトサイダーならどちら?

文字数 1,095文字

 土曜の午後。
 レンタカーを借りて縁美(えんみ)とふたりでアウトレットまでドライブがてら出かけた。

 コンパクトカーだけど後部座席をフラットにすると今日の目的のローテーブルを積めるので買ったらそのまま持ち帰るつもりだ。

 僕も迫田(さこた)さんに弟子入りしているんだから自分で作るという選択肢もあるだろうけど、アウトレットの入荷情報で見つけたそのテーブルは価格もデザインも、このタイミングを逃したら買えないだろうという『作品』なんだ。永年お世話になった今のテーブルの天板が割れてきたので決断に至ったわけだ。

蓮見(はすみ)くん、帰りはわたしが運転するね」
「ありがとう」

 アウトレットは隣県の県境を少し越えたところで、峠のワインディングロードを僕らは走る。

 雪の峠道や対面の高速区間を運転したことがあったけど、今日は幸い降雪もなく路面も乾いていて良好だ。

 片道2時間ほどのドライブでたどり着いたアウトレットは比較的空いてた。

「おお」

 思わず感嘆の声を上げる僕を見て縁美も嬉しそうだ。

 僕は家具には先端性でなく普遍性を求めるから。

 それほどにこのローテーブルは僕らの生活すら変えるんじゃないかと思うような美しい光沢と木目の深みがあった。

 僕らの注文で売約済みの札が貼られていて、支払いを終えてとりあえず車に積んでだけおいた。

「アウトレットって広いよねー。歩いて見て回るの大変だね、蓮見くん」
「うん。自転車が欲しいところだね」

 洋服、雑貨、家具、家電、見ているだけで僕らふたりが暮らし始めるときに生活に必要な品物を丁寧に吟味したことを思い出す。

 暮らすだけなら収入さえあればいくらも暮らせるけれども、できれば潤いある日々を過ごしたい。

 面白い店を見つけた。

『アウトサイダー・ブック・コミッティー』

 どうやらイベント的な出店の古本屋さんのようだ。

「あ!」

 僕と縁美はふたりで声を揃えた。

「『眼鏡や』の!」
「あらー。おふたりさーん。こんなところで遭えるとはー」

 以前縁美とふたりでいつもの電車の終点である『彼方西』駅まで行き着いた時に入ったカフェの店主の女性だった。因みにカフェとは言いながらコーヒーはそこで販売されている本を買ったそのオマケとしてついてくる。

「ロックな店名ですね」
「彼氏さーん、ありがとね。でもほんとに奇跡みたい。明日の日曜までだったから、イベント出店」
「あの。何かおススメの本ってありますか?」
「彼女さん、あたしの趣味に頼るってのはなかなかのもんだねぇ。どれ、ならちょっくら」

 店主さんがチョイスしたのは・・・

「『ふたり暮らしを豊かにするローテーブルの世界』!?」
「おや?おふたりさん、なんでそんなに驚くんだい?」
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