270 凡庸と非凡なら・・・どっちになれる?

文字数 1,303文字

 土木建築学科首席、真直(まなお)ちゃん。

 工業科首席、モンキー・レンチくん。

 商業科首席、ソロバン(算盤)ちゃん。

 普通科首席、コテン(古典)ちゃん。

「ウチの親方。ひゃひゃひゃ」
蓮見(はすみ)です。貴重な土曜日に集まって貰ってすみません」
「ウチのスーパーバイザー」
「え、絵プロ鵜(えぷろう)です」
「知ってます」

 コテンちゃんが即応した。

「コ、コテンどのは文学評論で普通科主席をとったと聴いたさね。(それがし)が描いてるのは漫画さね」
「芸術皆リスペクト」
「それからウチの・・・おかおかおか・・・」
「ふふっ。寮母の縁美(えんみ)です」

 さすがの真直(まなお)ちゃんも縁美に対しては照れてしまってお母さんとはっきり言えなかったが縁美は寮母ですと上手い答えで場を和ませてくれた。

 迫田(さこた)さんの後継の僕が過度な期待から、真直ちゃんたち一年生の主席組が卒業生へ贈る『何か』を思案することになってしまった。
 卒業式の3月18日は6日後だ。『とにかく着手せよ』の鉄則通り関係者と巻き添え2名をファミレスに招集した。

「毎年何やってるの?」
「蓮見さん」
「はい」

 モンキー・レンチくんに嗜められた。

「前例踏襲は最も忌み嫌われます」
「は、はい」
「蓮見さーん」
「ま、真直ちゃん」

 さすが我が娘。助け舟か。

「呼んでみただけー」

 こ、この子は・・・!

「ふ。さすが真直。緊張を解くのが上手い」
「ひゃひゃ。そういうソロバンこそ蓮見さんの心理まで算盤で計算する気だね」
「心理は文学の範疇」
「コテン、今は分野を横断して議論せねばならないんだよ」
「ロボットコンテストで全国優勝したからっていい気になるな!」

 なんというか・・・・・僕みたいな凡庸な人間など及びもつかない非凡な子たちだな。

「ねえ、みなさん」

 縁美が一声発すると・・・・・どうしてだか私語が止んだ。

「卒業生のみなさんの三年間の一番の思い出ってなんですか?」
「そうですね・・・・・大百足(おおむかで)かな」
「うん大百足だ」
「そうね。大百足ね」
「大百足で間違いない。ひゃひゃひゃ」

 大百足っていうのは毎年運動会のクライマックスで総合得点を左右する百足レースなのだそうだ。

 真直ちゃんの高校は学年学科関係なくそれぞれが『昇龍』『速龍』『日龍』『月龍』の四団に分かれて卒業するまでそれぞれの団で運動会に臨む。
 大百足はその四団から選抜されたメンバーが運動会の何ヶ月も前から練習して決戦に挑む、いわばムカデレースのリレー版だ。

「縄なんかじゃなくって、『ボード』って呼ばれるスキー板のすごい長いやつみたいなのを左右に履いて」
「そうそう。5人が一車(いっしゃ)で各団一〜三年・男女混合の四車がグラウンドのトラックを半周ずつリレーして」
「なぜ『車』かね?」
「なんていうか・・・重戦車みたいな迫力でそれがもうほぼ全力疾走に近いスピードで驀進するんすよ!」
「圧巻絵図」
「ふむう・・・おもしろそうさね」
「まあ、選手に選ばれる各団の20人はエリートね」
「じゃあ、三年間選ばれない人も」
「そうですね。選ばれなくて当たり前ですからね」
「縁美さん。それこそ優勝しようもんならメンバーは甲子園に出た野球部よりも英雄扱いですから!」

「一度は走ってみたいよね」

「!」
「!」
「!」
「ひゃひゃ!」

 僕の縁美は、やっぱりすごい。
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