FIFTEEN 日曜の夜は憂鬱?そうじゃない?

文字数 1,288文字

 日曜、僕らは結構忙しい。

 朝はゆっくり起きるけど、朝食を終えると『作業』にかかる。

 一週間を食いつなぐための。

蓮見(はすみ)くん。人参をいちょう切りにしてくれる?」
「うん。皮はピーラーで剥いていい?」
「いいよぉ」

 ふたり共月曜から仕事だから惣菜を一週間分作り置きしておくのだ。
 今作ってるのは忙しい時の頼みの綱、豚汁。
 今週は僕も遠い現場が多いし、縁美(えんみ)も高齢のお客さんの送迎ローテーションなのでふたりとも帰宅が遅くなりそうなのだ。

「お昼にしよっか」

 縁美の合図で僕はスパゲティ用のお湯をガスコンロにかける。
 このアパート、概ね快適なんだけど台所が狭くてガスコンロがひとつしかない。
 だからカセットコンロをローテーブルに置いて補助的に調理する。

 スパゲティには先週分の残った惣菜をアレンジしてかけて食べる。

「やっぱりアヒージョが一番合うね」
「そうかな?僕は厚揚げとひじきの煮物なんかをかけて食べるのも結構好きだけど」

 そんなこんなで午後に入って調理作業が終わる頃、縁美がいつものように興味深いエピソードを語ってくれた。

「ウチのおばあちゃんは自分で畑で作った野菜で漬物も作るし梅干しの梅は買うけどシソはやっぱり畑で獲れたのを使うし。日々の料理も出汁は煮干しや鰹節から自分でとってボトルに入れて冷蔵庫で保管して」
「うん」
「お姑さんが余りにもスーパーでワンマンなウーマンだったからお母さんの立つ瀬が無くってね・・・でも出汁を取るのをね、『出汁パック使ってもいいかね?』っておばあちゃんが言い出した時にようやく政権交代したんだよ」

 おおっ。
 政権交代だなんて、リアルだ・・・

「出汁取るのってほんとに大変だもんね」
「うん。わたしもほんとは蓮見(はすみ)くんに煮干しのはらわたとって出汁をきちんと取って、ってしてあげたいんだけど」
「ううん。出来る時だけでいいよ。その作業で疲弊したら本末転倒だから」

 という訳でふたりの料理は臨機応変にラクする方法を模索する。

「はあーあ。作業完了!」
「お疲れ様」

 結構日曜の夜は憂鬱だって話を聞く。
 でも、皆さんには申し訳ないけど、僕は日曜の夜が楽しい。

 なぜかというと・・・

「じゃあ、蓮見くん。どっち!?」
「ええと・・・じゃあ、抹茶小豆練乳を」
「あ。贅沢者ー。ならばわたしは流行りのチョコミントだね」

 スーパーで買ったアイスを食べるんだ。

 ふたりで。

「あー。しあわせー」
「うん。もう初夏だしね」
「蓮見くんなんて夏全快じゃない?かき氷だもんね」

 このひとときが終わって、寝る直前まで僕らはくつろぐ。

「蓮見くん。はい、ぬりぬりぬり・・・」
「・・・く、くすぐったい・・・」
「我慢して!」

 縁美が僕に『鼻パック』のクリームを塗ってくれるんだ。

 テレビは日曜洋画劇場のハートウォーミングな小作品を映してる。

「もういいかな」

 そう言ってパックをはがしてくれるのも縁美。

「わ、気持ちいいくらいに取れてる!」
「恥ずかしいよ、縁美・・・」
「ほ・ほ・ほ。美容にいいのよぉ」

 こうして僕らは眠りに就く。

「おやすみなさい、蓮見くん」
「うん。おやすみ」

 そして、日曜の夜は、手を繋いで眠るんだ・・・
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