172 ミステリートレインとヒステリートレインならどう!?

文字数 937文字

 旅の最後の夜の列車はデコレーションされていた。

「こんばんは。『ROCHAIKA-sex』です!」

 バンド名の発音は『ロチャイカセックス』

 元気のいい髪の短い女の子がヴォーカルでPrince & the RrvolutionのWendyみたいな子がギター。ベースの子はクールな美形。ドラムは上下ジャージで縁美ほど長身の痩せた女の子。キーボードは色黒アフロにヴーツィーコリンズばりの星型サングラスのやっぱり女の子。

 全員女子。
 けれどもヴォーカルの子がこう言った

「わたしたちはガールズバンドじゃない。ロックバンドだ!」

 この路線で休日前夜恒例の『ライブ列車』。

 デビューしたてのプロのバンドである彼女たちが今夜のアクトだった。

蓮見(はすみ)くん、ツイてるね!メジャーのバンドだよ!」
縁美(えんみ)。知ってる?」
「ううん。蓮見くんは?」
「知らない」

 でも、よかった。最初の一音聴いただけで演奏能力の高さがまるわかりだった。

 曲も、素晴らしかった。

 多分今の内に聴いておけば来年にはファンとして古参ぶれるんだろうと思った。

「ええと。みんな仕事帰り?あ!そこの背の高いおねえさん!」

 MCでヴォーカルの子が縁美を指名した。

「地元民?」
「旅の途中です」

 おおー!ってバンドのメンバーも乗客=観客も盛り上がる。

「旅かぁ。いいね。じゃあこれやっちゃおうか」

 若いバンドの演奏は激情を込める余りに時としてヒステリックになりがちだけど、彼女らは既にしてふてぶてしいぐらいの風格があった。曲名が告げられた。

「『The Galaxy Express 999』!』
(GODIEGO)

 バンドやロックファンだけでなくこの列車には鉄道ファンも乗り合わせているんだろう、僕らが乗ってるのは鈍行だけどそれはまさしく銀河を貫く超特急列車のような電撃的な演奏だった。

 車両は狭いけれどヴォーカルの子は激しいステージ・アクトでシャープな顎を天井に向けマイクを突き立て、ギターの轟音は宇宙空間に響き渡る汽笛のように伸びやかな音色で通過する街の軌道に残響を置いて走り続けた。

「わたしらが乗ってるのはミステリートレインさ!」

 アドリブでシャウトする彼女。

 ミステリートレイン。

 僕らの旅は行き先がまだ不明。

 線路すらこれから作るのさ!
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