TWENTY-FIVE 別居!?同居!?さあどっち!

文字数 1,273文字

「距離を置きましょう」
「考え直してくれないか」
「いいえ。もう我慢の限界・・・」

 ご安心を。僕と縁美(えんみ)じゃないよ。
 我が社の社長と奥さん。

「いやー。美咲(みさき)ちゃんよー。女房が出てっちゃってねー」
「社長。自業自得ですよ。奥様に感謝の言葉とか言ってました?」
「いやー。全く!」
「まさか浮気とかしてませんよね?」
「まさか。俺は女房を愛してるから」
「それを言葉にしないと!」

 勉強になる。
 僕も美咲さんと三春(みはる)ちゃんから牽制された。

蓮見(はすみ)っち。縁美ちゃんをちゃんと(ねぎら)ってる?」
「・・・のつもりですけど」
「せんぱぁい。ちゃんと『愛してるよ』って言ってあげてますかぁ?」
「・・・・・・・・・時々」
「チューしてあげてますかぁ〜?」
「・・・・・・・・ごくたまに」
「ダメですよぉー。毎日してあげないとぉー」

 確かに。
 中学校を卒業した春から5年間ずっと一緒に暮らしてきた。

 今更別居なんて、想像もできない。

「ただいま」
「あ、おかえりなさい。蓮見くん。今日のご飯は豚の冷しゃぶサラダ風だよ」
「あ、うん」
「蓮見くんの好きなはるさめ、いっぱいあるからね」
「ねえ、縁美」
「ん?なに?」
「その・・・アパートの家賃とかふたりでないときついよね」
「?まあ・・・そうだね。最近はこの辺も家賃の相場が上がってきてるし」
「それに、急病になった時もふたりの方が安心だよね」
「そうだね。あっ、そういえばわたしがインフルエンザになった時、蓮見くんが病院まで連れてってくれて・・・ありがとうね」
「うん・・・僕が夜勤の現場で怪我した時・・・縁美が病院まで来てくれてすごく嬉しかったよ」
「はは。病気とか怪我の話ばっかり」
「そ、そんなことないよ!楽しいことがいっぱいあったよ」
「そうだね・・・ねえ、蓮見くん。でも一回だけすごいケンカしたことあったよね」
「え・・・ああ・・・そうだったね」

 僕も覚えてる。
 しかもそれは一緒に暮らし始めて三日目のことだった。

「もう出てく!」
「ああ。出てけば?」
「ほんとに出ていくから!」

 原因はとっても些細なことだったと思う。15年間生い立ちも慣習も全く違う環境で育ったふたりがいきなり一緒に暮らし始めたのだ。ぶつかり合って当然だろうと今にして思う。

 その時、外は土砂降りだった。

「ただいま・・・・・」

 ぐっしょりとデッキシューズまで絞れば滴るぐらいに濡れ切った縁美は5分で帰ってきた。

「風邪ひいちゃうよ!早く入って!」

 僕はバスタオルを取り出してガシガシと縁美のストレートの黒髪を拭いてあげた。
 それですぐにふたりで銭湯へ行って、その間に隣のコインランドリーで縁美の服を洗濯して風呂上がりに乾燥機を回しながら丸椅子に座り、常備されてる大友克洋の漫画をふたりして読みながら缶コーヒーで心身を暖めたんだ・・・・

「まだ一緒にいてくれるよね」
「どうしたの?蓮見くん?」
「別れたり、しないよね」
「・・・・・うん。しない」

 それから、縁美はこう言った。

「一緒にいたいよ。蓮見くん」

 因みに、社長の奥さんは出て行った晩に焼肉屋さんで憂さ晴らしの1人飲みをして、翌日には無事帰って来たそうだ。
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