SIXTEEN 浮気?浮気じゃない?

文字数 1,009文字

蓮見(はすみ)君!」

 ええと。
 誰?

「アタシだよ。中学で一緒だった百合根(ゆりね)
「ああ・・・百合根さん、久しぶりだね。元気?」
「元気だよー。蓮見くんは・・・なんだか大人っぽくなったねー」
「まあ。20歳だもんね。お互い」

 中学三年の時に同じクラスだった百合根さんと仕事帰りの電車の中で偶然会った。

 実は僕がちょっとだけ片想いっぽい感情を抱いていた女子なんだ。

「ねえねえ。蓮見くんは卒業してすぐに就職したんだもんね。偉いよねー」

 なんか、この子、中学の時と雰囲気が違うな。なんていうか、もうちょっと慎重な物言いをしてたような印象だったけど。

「それから縁美(えんみ)さんも就職したんだったよねー。今どうしてるのかなあ」
「一緒に暮らしてるよ」
「え」
「僕と彼女、今一緒に暮らしてるよ」

 どうしてだか僕はズバッと言ってみたくなったんだ。けど、言った瞬間に百合根さんの物言いが更に変わった。

「ふうん・・・ね、蓮見くん。途中で降りて飲みに行かない?」
「お酒は苦手で」
「なら、ご飯だけでも」

 僕の感覚がズレてるのかな。
 今僕は縁美と一緒に暮らしてる、って言ったんだ。つまり、僕と縁美は彼氏彼女だ、って言ったのと同じだ。

 それなのにふたりだけでの食事に誘ってくるなんて。それとも男女であっても旧友が一緒にご飯食べるのってごく普通の社交の範囲なのかな?

「ねえねえ。行こうよー。あ、それとも、もしかして・・・」

 なんか、余り愉快な接し方しないんだな、百合根さんって。

「蓮見君、縁美さんの尻に敷かれてるんじゃないの?彼女、怖かったもんねー」
「そんなことないよ」
「えっ」
「縁美はどちらかというと僕を立ててくれるよ。まあ僕が情けない男だからだろうけど」
「ア、アタシは別に縁美さんをけなしてるつもりじゃないよ。ただ、まだ20歳なのになんだか蓮見君が色んなことを我慢してるように見えるから・・・」
「百合根さん、それ違うよ」
「え」
「僕ら、

20歳だよ」

 アパートの窓から明かりが漏れてる。

「ただいま」
「あ、お帰りなさい、蓮見くん」

 いつも通り縁美は僕の弁当の包みを受け取って、楽しそうに晩ご飯の用意を続ける。

「蓮見くん」
「わ」

 Tシャツに着替えてる僕の顔を、縁美が至近距離で覗き込んでいた。

「たまには寄り道して来てもいいよ」
「え・・・なんで?」
「5年間もわたしと毎日毎日一緒に居たら息が詰まって来ない?」

 背中から一気に汗が噴き出してきた。

 ・・・まっすぐ帰って来てよかった。
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