178 別れなら涙と笑顔のどっち?

文字数 1,097文字

 金曜の夜。

 会社のみんなが僕の就職祝い兼・送別会を開いてくれた。

 縁美(えんみ)も招待してくれた。

「社長!お願いします!」

 美咲(みさき)さんが社長に挨拶と乾杯の音頭を振る。

「えーではご指名ですので。蓮見(はすみ)君。本当に長い間お疲れ様でした!」
「ありがとうございます」
「俺の経営が拙いばかりにこんなことになって申し訳ない。縁美(えんみ)さんも」

 社長が居酒屋の個室で土下座するみたいに手をついた。

「や、やめてください社長。これは僕の選択でもあるんです」
「社長さん。そのお気持ちだけで十分です。ありがとうございます」

 僕と縁美も思わず手をついて頭を下げた。

「はいはいはい!社長がこんな状態だからわたしが代わりにやるね!かんぱーい!」

 美咲さんの電光石火の音頭についつられて全員乾杯してしまい、そのまま宴会へとなだれ込んだ。

「おーい!ルービールービー!」
「シースーシースー!」
「ちょっとあんたら!恥ずかしい業界人の真似しないでよ!」

 年配の先輩方も盛り上がってくれてる。

「蓮見せんぱい」
「うん」

 サラトちゃんが僕と縁美の前で畏まる。

「辞めた後もお会いして頂けますか?」

 僕が返事を躊躇していると縁美がさっさと答えた。

「もちろん!蓮見くんを元気づけてあげて?新しい職場に慣れないだろうから」
「縁美さんも」
「えっ」
「縁美さんも一緒に会って下さいますか?」
「もちろん。でも、いいの?」

 サラトちゃんが目尻を湿らせながら言った。

「わたし、せんぱいが好きです。でもそれって縁美さんとセットでいるせんぱいが好きなんだって分かったんです」

 20歳の縁美は大人の女性そのままの答えをした。

「サラトちゃん、あなたはすごい。人は自分だけの都合のいい人間に恋をするんじゃない。それじゃただの人形愛。誰かと関わっている時のその人の姿を・・・できれば誰かに優しさをあげてる姿を愛するものだよ」
「誰かに優しさをあげてる姿を・・・」
「15歳でそれが解っているサラトちゃんはもう大人の女性。是非今後ともお付き合いしましょう」
「ありがとうございます」
「ふふ。わたしもね」
「えっ」
「わたしも15で解ってたけどね」

 ソフトドリンクを飲むサラトちゃん以外の全員が前後不覚になっていく。

「おらぁ!蓮見っち!」
「はい、美咲さん」
「縁美ちゃんを泣かすんじゃないよ!」
「はい」
「もし泣かせたらわたしが蓮見っちを泣かせに行くからな!」
「子供ですか」
「そうそう!子供だよ!子供!あんたら!早く養子貰えよ!」
「はい」

 僕と縁美が声を揃えたところで美咲さんがもうひとつ怒鳴った。

「わたしいい手配師知ってんだよ!」
「手配師?」
「そう!子供の手配師!はははははっ!」

 法に触れたりしないよね。
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