187 自分の憩いと他のひとの憩いならどっち?

文字数 1,045文字

 これまでは僕と縁美(えんみ)はお互いが月曜からの仕事にスムースに入っていけるように日曜の午後から夜にかけての過ごし方を大切にしてきた。

 布団に寝そべって肘を突いて『日曜映画劇場』みたいな番組を観て。

 アイスをふたりで食べて。

 縁美に鼻パックのクリームを、ぬりぬりぬり、と塗ってもらったり。

 けれどもこれからは僕らのもとに来てくれるふたりの子供のことも考えよう。

 日曜の夜に安らかに眠れるように掛け布団の胸のあたりをトントンしてやったりとか。

 学校でいじめに遭っていないかとかいうことを子供本人の自己申告に任せずに表情や体のこわばりや食欲や熱なんかで気付いてあげたりとか。

 徹底して『大丈夫だよ』と心を安心させてあげたりとか。

「じゃあ蓮見くん」
「なに」
「蓮見くんを子供の実験台にしていい?」
「えっ!?」

 実験してもらった。

「ハスちゃん。今日の晩御飯おいしかった?」

 ハスちゃん・・・・・

「う、うん。おいしかった」
「全部食べたからご褒美あげないとね!」
「ちょ、縁美」

 縁美の顔が近づいてくる。

 いっときの欲望に身を任せてしまおうか・・・・

「縁美・・・ご褒美、ってなに?」
「ほっぺにちゅ、とか」
「だ、ダメだよ!」
「えっ?」
「あ、甘やかしすぎだよ・・・」
「ふーん。蓮見くん、もしかして」

 縁美がくすくすと笑いながら言った。

「嫉妬してるんだね?将来のわたしたちの子供に」
「う・・・・・・」
「う?」
「うん・・・・・・」
「わかったよ」

 縁美が顔の角度を変える。

「じゃあ、これならいい?」

 僕の顔を腕に抱いて。

「いい子だよ・・・・蓮見くんは」
「⚡︎⚡︎⚡︎!」

 縁美の胸に埋めた僕の髪を、手のひらの指のあたりで撫でてくれた。

 思わず僕は目を閉じて。

『母さん・・・・・・・』

 ずっと幼稚園ぐらいの記憶を辿ってみる。

 あのときは母さんはまだ優しかったな・・・・・・

「蓮見くん」
「なに?」
「わたしもして欲しくなっちゃった」
「えっ・・・・・・・」
「して?」

 した。

「蓮見くん、上手だね。『いい子いい子』するの」
「そ、そうかな」
「もしわたしたちの子供が女の子だったら、やっぱり嫉妬しちゃうな」
「僕らの子供が男の子だったら」
「男の子だったら?」
「僕も嫉妬してしまう」
「ふ。ふふふふふ」
「おかしいかい?」
「うん。わたしも蓮見くんも・・・・・子供だね」
「確かに」
「まるで子供。でも、かわいい」

 そう言って縁美は僕の鼻に、ちゅ、と音を立てて、くすぐったいようなキスをしてくれた。

「これは実験じゃないよね」
「さあ」

 子供だな、僕らは。
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