125 運動会と文化祭ならどっち?

文字数 1,174文字

 住民運動会。

 いやだけど逃げられない。

「真剣におやりよ!」
「はい!」

 僕らの街の地区対抗住民運動会が今年もまたこの連休の初日に開催された。アパートの店子たちも大家さんに駆り出された。

「今年も優勝は一番街だろう」

 この街一番の繁華街エリア。ホストクラブやキャバクラの若い戦力が豊富なんだ。

 片や僕らは十番街。
 ブルース・スプリングスティーンの10th Avenue Freez-out. さ。

蓮見(はすみ)くん。秘密兵器を」
「うん」

 強力な助っ人が居る。

「サラトちゃん。膝、大丈夫?」
「はい。抜糸後も順調で、念のために昨日チェックを兼ねてアップで軽く走りました」
「無理しないでね」
「縁美さん、ありがとうございます」

 一応もうひとり居るけど。

(それがし)、何に出ればいいさね」
絵プロ鵜(えぷろう)は・・・玉入れかな」
「玉、入れまくるさね!」

 住民運動会なんて長閑なもんかと思うかもしれないけど、競技は熾烈を極めた。

 満水レース。
 おたまに色水を入れて走り、一升瓶に入れて戻って来て次の走者にタッチ。
 これをビンから色水が溢れ出るまで繰り返す。

「おいおいおい!根性入れろ!」
「こらあ!死ぬ気で走れ!」

 一番街のホストのおにいさんたちは気合入れまくりだ。僕ら十番街は平常心でリレーする。

「サラトちゃん、速い速い!」

 会場として借りている小学校のグラウンドに集まった全員が注目した。

 高身長で容姿端麗なサラトちゃんはおたまの水が固まってるんじゃないかと錯覚するぐらいにまったくブレずに超高速で走る。

 けれども次の走者である縁美も注目を浴びた。

 同じように高身長で大きなストライドで走る。やっぱり一滴も水をこぼさずに。

「十番街を徹底マークだ!」

 縁美とサラトちゃんは他の競技でも一番街をはじめとした他の地区から警戒された。
 でも、思わぬダークホースが居た。

『ああっと絵プロ鵜選手、速い!』

 ローカル・イベントにありがちな素人実況で墓石屋の社長がマイクで怒鳴る声に全員がトラックの中を見る。

 早食いリレー。

 まずは机まで走る。そこに置いてあるパンと牛乳を一気に食べる。
 そして走って戻り、次の走者にバトンタッチ。

 次の走者はカキ氷アイス・バーを一気食い。

 絵プロ鵜はその両方で走ったんだ。

「カップラーメン、飲むゼリー、固形栄養バー、バナナ、焼き芋。漫画の締め切り前はあらゆる食糧を15秒で食べるさね!」

 絵プロ鵜のその啖呵が、どういうわけか会場を熱狂させた。

 夕方、すべての競技が終わって一位は今年も一番街だったけど十番街も二位と大健闘。

 あろうことか絵プロ鵜が最優秀選手に選ばれた。

 閉会式にて。

「絵プロ鵜さん、ひとこと!」
「パンが、このうえなく不味い(まずい)さね!」
「あっ・・・ええと」
「なにさね」
「あれ、ウチのパンでして・・・」
「え!」

 インタビュアーが当該のパン屋のオヤジさんだった。
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