170  ディナー代とホテル代ならどっち?

文字数 1,068文字

 3日目の最終下車駅をそろそろ決めないといけない。

 縁美(えんみ)がこんなことを言った。

蓮見(はすみ)くん!おいし〜いもの食べたいね!」
「でも近隣の駅には繁華街なんてなさそうだよ」

 縁美はスマホで調べ始める。
 僕も横から覗き込んだ。

「あ!これどう!?」

 ホテルのディナーの予約サイトだった。

 ここから3駅目にあるそれはビジネスホテルじゃなかった。

 なんと東京の皇居の近くにある一流ホテルのブランチだった。

「こんなところにあるんだね・・・」
「ね、ここにしよ?」

 ディナーのコースは。

「20,000円から!?」
「おひとり様ね」

 ふたりで最低4万円。

「宿泊代は・・・」

 日曜の割引で、ツインが一泊3万円。

 一晩で7万円。

 でも、そうした。

 チェックインした後で持ってる服をなんとか組み合わせてドレスコードをクリアした。

 フレンチレストランでワイングラスを触れ合わせる僕と縁美。

「乾杯!」
「なにに?」
「蓮見くん、お仕事お疲れ様でした!」
「ええ?」
「だって蓮見くん」

 縁美は真っ白なテーブルクロスの下で膝の上に手を重ねた。

「蓮見くんは15歳の春からずっと働き通しなんだから」
「縁美だってそうだよ」
「そうだけど・・・だから、こういう時ぐらい贅沢しないと!」
「・・・電車は青春18きっぷなのに?」
「ボロは着てても心は錦!」

 用法が間違ってると思うけど、けれども素晴らしく美味しかった。

「こんなの食べたことない」
「うん」
「ああ・・・食べさせてあげたかったな・・・・」
「?誰?もしかして絵プロ鵜(えぷろう)に?」
「あー。絵プロ鵜ちゃんにも日頃のお礼をしたいけど・・・将来わたしたちの養子になってくれる子に」
「ああ・・・・・・・ほんとだね。いつか食べさせてやりたい」
「蓮見くん。昼間出会ったご夫婦だけど」
「うん。一番下の子が養子の」
「あのお父さんが言ってたのって、やっぱり切実だよね」
「そうだね。経済的な余裕が必要だって」
「蓮見くん。今の時点でいいんだけど・・・蓮見くんは何になりたい?」
「もちろん」

 これだけはもう躊躇がなかった。

「親になりたい」
「よかった」
「・・・・・それで・・・・養子を迎えるとしたら、多分普通に親になるよりもきっとハードルが高いと思うんだ」
「うん」
「だって」

 僕は慣れないナイフとフォークで肉を切って、それから宣言するみたいに・・・・縁美に言った。

「わざわざ僕らの子供になって貰うのに悲しい思いをさせる訳にいかないから」
「うん!」

 縁美が頷いた後で、やっぱりもうひとつ付け足した。

「ひもじい思いもさせられない」
「がんばろうね、蓮見くん!」

 いい夜だ・・・・・・・
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み