THIRTY-TWO 深夜はコンビニ?スーパー?

文字数 950文字

 真夜中におなかがすくことが時折ある。
 でもそれっておなかがすいてるんじゃなくて、眠気を消したいということだろう。

蓮見(はすみ)くん。久しぶりだね、深夜のコンビニ」
「確かに。ふたり揃って来るなんてあまりないよね」

 アパートを出てすぐの湾曲した坂を登り切るとマイナーなコンビニに行きつく。
 そこではどこにも売っていないようなスイーツが置いてある。

「わあ。見てみて。『角砂糖デニッシュ』だって」

 縁美(えんみ)が指さす商品を見ると確かにそう書いてある。

「チョコデニッシュとか板チョコが入ったデニッシュとかはよく見るけど・・・角砂糖がそのまま入ってるってこと?」
「蓮見くん。買ってみよっか?」

 買っちゃった。
 早速イートインに並んで座って食べてみた。
 半分こして。

「・・・甘い」
「うん。甘い」
「・・・甘い、だけだね」
「あ、あれかな。コーヒーを一緒に飲むなら砂糖を入れる代わりにこれとか」

 一応口直しにレモンケーキを買ってあったのでそれも半分こして食べた。

「あ。蓮見くん」
「なに」
「一輪挿し、買わなきゃ」

 僕と縁美のアパートには鉢植えの浜大根(はまだいこん)がある。ベランダに置いてある。

 縁美が欲しがったのはそれとは別に、背の低いふたり用の冷蔵庫の上に置いてあるスリムなガラスの花瓶に活ける一輪挿しにする花。

 やっぱりアパートからの徒歩圏内にある深夜スーパーになら種類は少ないけれども、テナントの花屋が閉まった後もレジで買える花が置いてあるという。

「静かだね、蓮見くん」
「うん。なんか、映画でこんな感じのシーンを観たことがあるなあ」
「スーパー?」
「うん。やっぱり深夜スーパーの映像だったと思う」

 アニメだったか、実写だったか、あるいは実写のようにリアルなアニメだったのか。

 僕と縁美は店内をひとまわりしてみる。

「ウチのスーパーとはやっぱり陳列から何から全然違うな」
「縁美のスーパーってもっと広かったっけ」
「広さはこっちの方が広いけど」

 彼女は僕よりも高い顔の位置から視線をぼやかした。
 つぶやいた。

「寂しい感じ」

 紫の花を買った。

 作業台にハサミがあったので茎を適当な長さに切って、そのまま縁美がもてあそぶようにして親指と人差し指でゆらゆらさせながら帰途に着いた。

「見て」

 縁美が花弁を月に晒す。

「きれい」

 この花に僕らは、世の無事を願う。
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