１７６　集団面接と個別面接ならどっち？

「いいんですか？」
「はい。給与条件も勤務時間の条件も幅を広げて構いません」

　旅の後のハローワークにて。
　とにかく企業の人と直接会えなきゃ話にならないって思った。

　それに僕は20歳だけど『ひよひよ』じゃない。この5年間でそれなりに酸いも甘いも経験してきた。

　何より15歳で実家を出ざるを得なかった境遇は希少なはずだ。

　ハローワークの武部(たけべ)さんのサポートもあって、もう20近い会社と面接できた。日に3社〜4社回った日もあった。

　でも、今時の面接ってこういうものになってしまってるんだ、って思い知らされた。

「集団討論をして頂きます。まずこちらから司会役を指名しますので自主的・積極的に討論を進めてください」

　テーマはアメリカの大統領選挙について。

「司会を務めさせて頂きます。まず、二人の候補者の思想的背景から議論しましょう」

　なんでこのテーマなんだろう。
　でも、みんな発言してる。

「教育環境で二人の立場は異なります。片や名門私立、片やごく一般的なパブリック・スクール」
「職歴についても順調にキャリアアップしてきたかどうかが施策に影響するのでは」
「社会保障制度のフリーライドを許さない姿勢を取っているのは重要なポイントですね」

　だからなんなんだろう。

「あなた、さっきから一度も発言しておられませんね。いかがですか？どちらが大統領にふさわしいと思いますか？」

　僕に訊くのか。

「どちらでもいいと思います」

　休憩時間に『ご縁が無かったですね』って僕だけ採用担当者から帰るように言われた。

『この資料でプレゼンを』
『ボランティア活動してましたか？』
『学業かスポーツかで表彰・入賞経験は？』
『自分の特技を30個挙げて下さい』
『SNSやってますか？あなたはインフルエンサーですか？』

「縁美(えんみ)」
「どうしたの？蓮見くん？」
「最後に受けた所もダメだったよ」
「そう・・・・・・」
「高校や大学新卒の採用時期でもないのに・・・・・・みんなやっぱり若いし、それにどうして集団面接ばっかりなんだろう・・・・職種だってメーカーの工場勤務や小売店舗のスタッフだったりするのになんであんな討議内容になるんだろう」
「働き始めてから職場とのミスマッチに気付くケースも多いから両方必死なのかもね・・・でも集団面接ってあれみたいだね」
「？」
「幼稚園の入園テストで子供たちを好き勝手に遊ばせておいて、その遊んでる様子で協調性だとか社交性だとかを審査するみたいな・・・」
「はは。僕は幼稚園以下か・・・」
「ううん、違うよ」
「？」
「たとえばスーパーのご年配のお客さんは自分が『一番のお客』って扱われなかったら拗ねちゃうの。他の誰かに愛想振ってたらいじけちゃうの」
「ふうん・・・・でもそれと面接とどう関係するの？」
「蓮見くん。目の前の相手に『すべてを尽くす』って姿勢じゃないとサービス業だろうが製造業だろうがもう生き残れないよ。個別面接なら蓮見くんのそういう能力にきっと気付いて貰えるよ」
「能力？」
「うん。きちんと評価されるべき能力」

『能力』だなんて、思いもしなかったな・・・