Fourteen キスするなら「ちゅっ」と「ぶちゅっ」とどっち?

文字数 906文字

 僕は

ができない。
 だから僕が縁美(えんみ)にしてあげられるフィジカルな愛情表現の最上級はとりあえずキスということになる。
 けれども僕は毎日はしてあげてない。

 え。
 なぜか?

 だって、恥ずかしい・・・

蓮見(はすみ)くん。今日キスの日だって知ってた?」
「え。そんなのあるの?」
「そうなんだって。5月23日はキスの日だからSNSは『#キスの日』のタグ付けで溢れてるよ」

 土曜のお昼過ぎ、まとめて買い出しをしようとふたりして自転車でアパート近くのスーパーマーケットに向かって並んで走っている時、川縁の土手道で縁美が話題を出してきた。

 そういえばしばらくキスをしてない。

「したいの?」
「うん。してほしい」

 僕は自転車を止めた。
 縁美も合わせて止める。

 土曜の午後。
 土手にはふたりだけ。
 晴れているけど程よく雲も流れていて柔らかな陽光。
 土手の下の河原には芝生があって親子連れがサッカーやフリスビーをしている。その芝生の上を通った川からの風が冷えた空気を僕らのところまで運んで来る。

 その風が届いた時、縁美の髪がなびいた。
 なびいた前髪を僕は手のひらでナチュラルにかきあげてあげる。

 縁美はそのまま目を閉じて、僕は彼女の唇の位置を間違えないように充分に距離を近づけてから僕も目を閉じた。

 触れるぐらいに繊細なタッチで、キスしてあげた。

「あ」

 縁美が、ふっ、と僕から体を引き離してつぶやいたのでその方向を見ると、女の子が立っていた。

 淡い青のアジサイのプリント柄のTシャツを着た女の子がリードの先の仔犬と一緒に立っていた。

「ご、ごめんなさい・・・」

 思わずその女の子に謝る縁美。
 女の子は高校生にしては幼く、小学生にしては大人っぽい。

 無言で軽蔑の眼差しで通り過ぎたって一向に構わないのに、その女の子はこう言ったんだ。

「・・・お幸せに」

 縁美も素敵だった。

「ありがとう・・・」

 僕はこのふたりの女性のやりとりを見て、どうしてだか涙がこぼれそうになった。

 なにか、このたまらなく幸せな気持ちをなんとかして表現したかった。

 女の子が後ろ姿を見せて歩いて行くのを見送りながら、僕は縁美を抱き寄せて。

 さっきよりも長いキスをしてあげた。
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