126 テントとシートならどっち?

文字数 1,058文字

 僕も縁美(えんみ)も仕事柄カレンダー通りでは必ずしもなくて連休がそんなに続くことはないんだけど、今回は珍しく続いた。

 なのでレンタカーを借りてふたりで遠出した。

「縁美。運転代わろうか?」
「大丈夫。蓮見(はすみ)くんも仕事の疲れ溜まってるでしょ?眠っててもいいよ」
「ううん。眠らない」
「どうして?」
「だってふたりのドライブなのに勿体無い」

 行き先は山・・・の麓あたりのキャンプ場。

「初心者だから」

 そう。
 山を甘く見ちゃいけない。とにかく謙虚に。

 一応サラトちゃんからテントとシュラフは借りた。
 別にサラトちゃんは登山が趣味なわけじゃない。びっくりするような話だけどバドミントンの遠征でホテルの予約が取れない時、テントを張って会場の横で野宿したんだという。
 全中でシングルス全国3位になった時がそうだったらしく、ちゃんとホテルが取れていたら優勝していたんじゃないだろうか。

「わたしも連れてってください」

 ってサラトちゃんはホンキで言ってたみたいだけど、一応僕も男なので問題ありと判断してお土産(キャンプ場の土産ってなんだ)を買って帰ることで落ち着いた。

 キャンプ場に着く前辺りから急に雲が濃くなってきた。

「晴れるって言ってたのにね」

 雨が降り出した。それも結構な豪雨で。

 一応オートキャンプ場のような形態になっていてとりあえずテントを張る予定だった場所へ車で乗り入れた。

 バーベキューコーナーは屋根付きなので予約しておいた食材を管理棟で受け取ってとりあえず夕食にした。

「雨だけど外で食べるだけでもおいしいね」
「うん」

 縁美の超ポジティブ順応にさすがだなって思うのと同時に僕も食べてる内に楽しくなってきた。

 酒量はふたりで缶ビールとレモンサワーを一本ずつ。たったそれだけで結構いい気分になった。

「テントは無理だね」
「しょうがないね。車中泊で」

 借りたのはコンパクトカーだけどバックシートを倒して荷台と後部座席がフラットにできる。

 そこにサラトちゃんから借りたシュラフを並べて敷いて、そこまで寒くはならないので潜り込まずに上半身はフリーにして仰向けに寝た。

「雨音が」
「すごいね」

 山だからだろうか。ルーフにぶつかる雨粒もスケールが大きいような気がする。

 大音量でも雨の音は、心落ち着けてくれた。

「・・・くん。蓮見くん」
「・・・んん?」
「観て」

 縁美の声で目が覚めて、隣で彼女がやってるように顔を思いっきり反らせて逆さまからフロントグラスの上にある雨上がりの夜空を観た。

「星だよ、蓮見くん」
「うん。星だ」

 サラトちゃんにも星空を送ってあげた。
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