208 勤勉と怠惰ならどちら?

文字数 1,142文字

 日曜は作り置き惣菜を一気に調理する日って縁美(えんみ)とふたりで決めてるけど、年に何回かサボりたくなる時がある。

 大抵は片方がもう片方を励ましてなんとか作業を終えるんだけど、今日は違った。

蓮見(はすみ)くん・・・ちょっとしんどいの・・・」
「大丈夫?体調悪い?」
「ううん、そうじゃなくて・・・気分的なもの。なんだかやる気が出なくて・・・」
「あれ?縁美も?」
「ということは蓮見くんも?」

 ふたりともサボりたいっていう気持ちが一致した。

 え、でも。

 これって、そもそもサボりなのか?

「蓮見くん、ごめんね」
「なんで縁美が謝るの?誰だって気分が乗らない時があるよ。僕だってそうな訳だし」
「うーん・・・でもなんだか罪悪感・・・勤めを果たしてない、みたいな」
「縁美、たとえばさ」
「うん」
「僕は家事ってとても大切な仕事だと思うし、だから専業主婦・主夫の人も勤め人の人も勤めながら家事をしてる人も、みんな同じように重要な役割を果たしてると思うんだよね」
「うん・・・・・そうだね」
「そういう人たちが『疲れた・・・』っていう時に少し休憩するのって『サボリ』なのかな?」
「・・・・・そうじゃないって思いたいね」

 仕事である以上、きちんとしないといけないってみんな思ってるんだけど、気持ちが言うことを聞かない時は・・・うーん・・・

 そのままアパートにいるとなんだかふたりして自己嫌悪になりそうだったので、「勉強のため」という言い訳を作って、デパ地下の惣菜売り場を見に出かけた。

「結構味が濃いね」

 ショウケースのような保冷ケースのパッドにいく種類もの惣菜が納められてて、試食をしながら縁美とふたりで評論し合った。

「やっぱりデパートだと見栄えよく作ってるよね」
「うん。同じ豆を使ったサラダでも違う種類の豆を使ってカラフルにしてるし」

 ふたりで話していると縁美が突然言った。

「もし蓮見くんのお母様と一緒に暮らしてたとしたら」
「え?」
「疲れてるから作らない、ってなかなか言えないよね・・・・・・」

 思いもしなかった。

 でも、実際そういうことだ。

「ねえ、蓮見くん。蓮見くんはお姉さん夫婦がいらっしゃるけど今は東京で・・・そうなったら現実的にお父様とお母様のお世話をいずれしなくちゃいけないよね?」
「う・・・ん・・・確かに、そうだね」
「わたし、蓮見くんと、養子に迎える子供のことだけ考えてた」

 縁美は不安な顔をしている。

「僕の両親と暮らすのなんて、嫌でしょ」
「蓮見くん。その前に蓮見くんとご両親と、それからわたしもわたしの両親と・・・和解しないといけないよね」
「ほぼ不可能だけど、もし和解できたら一緒に暮らせる?」
「・・・・・・『暮らせる』んじゃなくて『暮らす』よ?」

 縁美にとっては、舅・姑。

「蓮見くんのためならば、いっしょに暮らすよ」

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