215 濃厚と淡白ならどっち?
文字数 1,129文字
濃厚、という言葉を聞いてどんなイメージを持つだろうか。
美食番組の表現でよく使われるのは『濃厚なスープ』とか『濃厚な食感』とかだろうか。
スポーツ系のドキュメンタリーなんかだと『濃厚な時間を過ごした』などといえばみっちりと体をいじめ抜く負荷をかけた練習をした時の充実感だろうか。
じゃあ。
恋愛の場面では?
「縁美 」
「はい」
これは、僕と縁美との合言葉。
キスする時の。
「・・・・・・・・」
唇が触れ合った時、無言の僕。
「ん・・・・・・・」
いつも、ほんの少しだけ声を漏らしてくれる縁美。
どんな深さのキスでもそれはほぼ変わらずに、少しだけ、声を漏らしてくれる。
唇をはなして、引きのアングルでレンズの焦点を合わせるみたいに向き合い直る僕と彼女。
「・・・・・蓮見 くん・・・・今のは濃厚?」
「・・・・縁美は?」
「きわめて濃厚。だと思うよ」
僕たちが今したキスがどんな形状のそれだったかなんて描写するのは彼女に申し訳ないから敢えてしないけど・・・・・
僕も濃厚だった、と思う。
「お茶碗洗わないと」
アパートでふたりで夕飯を食べた後のローテーブル越しにしたキスだったから余計に濃厚に感じたのかもしれない。
今夜のメインのおかずは赤ワインをこれでもかと使ったビーフシチューだったから。
台所のシンクの前にならんで縁美が食器に洗剤をつけて、僕がすすぐ。
「蓮見くん。ビーフシチューは濃厚だよね?じゃあお吸い物は?」
「ええ?」
僕はこういう縁美の感覚が嫌いじゃない。とても合理的なんだ、思考から所作から。
けど、それが決して冷たさじゃないんだ、ってことは彼女が職場であるスーパーで高齢のお客さんたちから慕われてることからよく分かる。
「お吸い物なら、『あっさり』かな」
「わ、蓮見くん!」
「な、なに?」
「まさか、『アサリのお吸い物だからあっさり』なんて洒落じゃないよね?」
「違うよ」
僕の返しに彼女がびっくり顔になる。
「い、今の『違うよ』って、あっさり!」
「ええ?」
「ん・・・・と・・・・そう!『淡白』!」
なるほど。
そうかもしれない。
ちょっと冷たいって捉えられる僕の物言いも、あっさりとか淡白って言うと、それっぽく聞こえるもんだね。
僕は意地悪した。
「じゃあ、淡白なキスってどんなの?」
「え」
僕の顔をびっくり顔のままで静止して見つめる縁美。
でも動き出したら速かった。
つっ
って音がしたように感じると、縁美が僕の頬に唇をつけた瞬間に離してた。
「こんな感じかな?淡白なキス」
小鳥のついばみ。
「ごめん。一瞬すぎてよく分からなかった」
「もう」
そう言って彼女は、もう一回唇を僕の頬に短く往復させた。
「・・・・・・蓮見くん。どう?」
「うーん・・・・・」
「二回で分かって?」
美食番組の表現でよく使われるのは『濃厚なスープ』とか『濃厚な食感』とかだろうか。
スポーツ系のドキュメンタリーなんかだと『濃厚な時間を過ごした』などといえばみっちりと体をいじめ抜く負荷をかけた練習をした時の充実感だろうか。
じゃあ。
恋愛の場面では?
「
「はい」
これは、僕と縁美との合言葉。
キスする時の。
「・・・・・・・・」
唇が触れ合った時、無言の僕。
「ん・・・・・・・」
いつも、ほんの少しだけ声を漏らしてくれる縁美。
どんな深さのキスでもそれはほぼ変わらずに、少しだけ、声を漏らしてくれる。
唇をはなして、引きのアングルでレンズの焦点を合わせるみたいに向き合い直る僕と彼女。
「・・・・・
「・・・・縁美は?」
「きわめて濃厚。だと思うよ」
僕たちが今したキスがどんな形状のそれだったかなんて描写するのは彼女に申し訳ないから敢えてしないけど・・・・・
僕も濃厚だった、と思う。
「お茶碗洗わないと」
アパートでふたりで夕飯を食べた後のローテーブル越しにしたキスだったから余計に濃厚に感じたのかもしれない。
今夜のメインのおかずは赤ワインをこれでもかと使ったビーフシチューだったから。
台所のシンクの前にならんで縁美が食器に洗剤をつけて、僕がすすぐ。
「蓮見くん。ビーフシチューは濃厚だよね?じゃあお吸い物は?」
「ええ?」
僕はこういう縁美の感覚が嫌いじゃない。とても合理的なんだ、思考から所作から。
けど、それが決して冷たさじゃないんだ、ってことは彼女が職場であるスーパーで高齢のお客さんたちから慕われてることからよく分かる。
「お吸い物なら、『あっさり』かな」
「わ、蓮見くん!」
「な、なに?」
「まさか、『アサリのお吸い物だからあっさり』なんて洒落じゃないよね?」
「違うよ」
僕の返しに彼女がびっくり顔になる。
「い、今の『違うよ』って、あっさり!」
「ええ?」
「ん・・・・と・・・・そう!『淡白』!」
なるほど。
そうかもしれない。
ちょっと冷たいって捉えられる僕の物言いも、あっさりとか淡白って言うと、それっぽく聞こえるもんだね。
僕は意地悪した。
「じゃあ、淡白なキスってどんなの?」
「え」
僕の顔をびっくり顔のままで静止して見つめる縁美。
でも動き出したら速かった。
つっ
って音がしたように感じると、縁美が僕の頬に唇をつけた瞬間に離してた。
「こんな感じかな?淡白なキス」
小鳥のついばみ。
「ごめん。一瞬すぎてよく分からなかった」
「もう」
そう言って彼女は、もう一回唇を僕の頬に短く往復させた。
「・・・・・・蓮見くん。どう?」
「うーん・・・・・」
「二回で分かって?」