FORTY-SEVEN 仇討ちと復讐ならどっち!?

文字数 1,322文字

 実は僕は忠臣蔵が好きだ。

 毎年年末になると様々な形で作られるドラマも好きだし、小説ならば吉川英治の「新編忠臣蔵」は涙なくしては読めない人情の機微にあふれ、しかも青春小説のように爽快だった。

 だから、という訳ではないけど、リベンジ・マッチに招待された。
 バドミントンの試合を観るのは初めてだ。

蓮見(はすみ)せんぱい。わざわざ来て下さってありがとうございます」
「サラトちゃん。頑張ってね」
「それから・・・縁美(えんみ)さん、初めまして」
「こんにちは、サラトちゃん」

 うわ。

 なんだろう、このバチバチは。
 話題を反らそう。

「サ、サラトちゃん。今日は因縁の相手なんだね」
「はい。決勝までいければ、ですけど」
「でも、こんなこと言ったら叱られるだろうけど、いわゆる市民大会でしょ?高校とか大学の大会ってわけじゃなくて」
「それが・・・わたしが出ると言ったら現役たちがしゃしゃり出てきてしまって」
「あ。それじゃあ」
「はい。狙われてるのは、わたしなんです」

 サラトちゃんはかっこよかった。

「く・・・くあっ!」
「はっ!」

 175cmの長身の彼女が放つジャンプスマッシュに、大会運営サイドのえらい人たちがコメントする。

「うーん。男子の実業団選手にも引けを取らない破壊力だ」
「相変わらず速い。初速400km/hぐらい行ってませんかね」
「大げさでなく、そうだろう。どうしてインターハイ常連校に進学しなかったんだ」

 準決勝。
 相手は高校三年生で昨年のインターハイ女子シングルスでベスト4の選手だ。

「サラト。中学の時に2コ下のあんたに負けた屈辱は忘れてないよ」
「そうですか。いい試合しましょう」
「この・・・ふざけやがって」

 どうやら相手はサラトちゃんに復讐心満々のようだ。
 スタンド最前列で応援する僕と縁美の前までサラトちゃんはやって来てこうつぶやいた。

「わたしはふざけてません。今までの全試合ホンキですから」

 ストレート勝ちした。

 決勝戦。

 なんと、地元に拠点を置く実業団チームの第一シングルスのエース選手。

 因みにその実業団は昨季の日本リーグで団体三位。

「サラトさん。悪いけど妹の仇、とらせてもらうわ」
「遠藤さん。わたしは妹さんに特別な敵愾心など持っていません」
「それが・・・ふざけてる、ってのよ!」

 仇討ち。

 実業団のトップ選手が、中学を卒業したばかりのサラトちゃんに対して大人げないと思ったけど・・・・・・大接戦となった。

「この!クソ!」
「はあっ!」
「う・・・っ、せいっ!」
「ほうっ!」

 最後のプレーはサラトちゃんのターンだった。

「ショウっ!!」
「ああっ!」

 フルセットでデュースを繰り返した最後のショットは、実業団でもそうそうお目にかかれない、サラトちゃんのハイバックハンドスマッシュだった。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

 勝利したサラトちゃんも息絶え絶えだったが、この番狂わせに会場の雰囲気が沈み込むを超えて凍り付いていた。

 起こってはならないことが起こってしまったかのように。

 足を引きずりながら彼女が僕と縁美の前にやってきた。

「蓮見せんぱい、勝ちました」
「う、うん。すごかったよ。おめでとう」
「縁美さん・・・・・・・勝ちました」
「・・・・・・・おめでとう、サラトちゃん」
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